第53章 心通わせ
私は胸騒ぎがするなか、話に耳を傾けた。
「昔ねえ、わがままな人がいたのよ。」
出だしは意味がわからない言葉から始まった。
「自分の思い通りにならないと気に食わないって人がいたの。みんな呆れていたわ。私も周りの人も、たくさん怒ったわ。けど誰のいうことも聞かないの。
そんなんだから、きっとこの人は一人で生きていくんだろうと思ったの。でもね、ある日突然家出したのよ。『駆け落ちします、もう帰りません』って書き置きだけ残して。
なんかねえ、止められなくてねえ。好きな人を追いかけてむちゃくちゃするところとか、私に似てしまったんだわ。そんなことにならなくてよかったのに。」
……?
「わがままなところも私の遺伝かしら。嫁いだはいいけれど、その性格が災いしていろんな人に迷惑をかけたらしいわ。本当に誰の意見も聞かないんだもの。何がそんなに気に食わないのかしらね。
そんな人だから私も姉さんも見捨ててしまったの。私はお嫁に行って氷雨を捨てたから、もう関係ないけれど。けれど一応は血が繋がっているからねえ。放ってもおけないっていうかァ〜。ちゃんにだけ任せるのも悪いって言うか〜…。」
「お前、何を言っているのかさっぱりわからないぞ。結論だけ言ったらどうだ。」
霞守パパが長くなりそうな話をぶった斬った。
…うん。話し方がゆっくりなこともあってそろそろ発狂しそうだったからちょうどよかった。
「私ね、氷雨家の人間なのぉ〜」
いろんなものを置き去りにして結論だけ言われてしまい、私は小さく悲鳴を上げた。
「それでねえ、お姉ちゃん……わがままな人…う〜ん」
「…妻は、あなたの母ヨウコさんの妹なんです。」
呆れ返ったご主人が補足した。
……待って頭がフリーズした。
「あなたは〜お姉ちゃんの〜子供だからぁ、私のぉ〜ん〜と、え〜とぉ、姪っ子ちゃんになるの〜」
……………
私は巌勝に視線を投げた。
「周知の事実だ」
………この驚きとパニックを共有してくれるかと思ったのに、彼は既に知っていたようだった。
病室では私が一人だけおろおろと慌てていた。