第53章 心通わせ
その男の人の背後から、また新たな人の気配を感じた。…ああ、この気配は知っている。
「私も〜」
ぬるっとした湿っぽい声。ひらひらと手を振ってしまりのない笑顔を見せてその女性は現れた。
「妊娠の時は辛かったからぁ、気持ちはわかるわ。」
今度は陽明くんが悲鳴を上げた。
「おまっ…」
「陽明〜ヤッホ!」
やっぱり若いな…霞守ママ。
てことは、あの中年の男の人は霞守パパということか。
「よしなさい、大人がみっともない」
「まあ〜他人の前で子供叱ってる方がバカみたいじゃない。」
夫の背中をツンツンとつついて今日は随分とご機嫌なようだった。相変わらず風変わりなふわっとしたワンピースを見にまとい、踊り出すような軽やかな足取りで病室内をスタスタと歩いた。
「なんでアンタの行動は俺の力でも読めないんだよ!お前が来るなら今日来なかったのに!!」
「ええ〜だってママだもの。その力はママがあげたんだよ。」
「うるせえクソババア!」
「陽明ッ!!!」
ああ、たいへんだぁ。霞守ファミリー劇場が開園してしまった。
困り果てた私は巌勝と顔を見合わせた。
「皆さん、ここは病院です。大きな声を出されると腹の子が驚いてしまいますので、あまりお騒ぎにならないよう…」
巌勝が小さな声で注意を告げると、三人とも黙った。
…霞守パパも周りが見えなくなる人みたいで、やってしまったと言わんばかりに頭を抱えていた。
「あなた、陽明。今日はお姉ちゃんの話をしに来たのよ。私はクソババアでもいいから、用事を済ませよう?」
「あ、ああ…」
私は頭痛と耳鳴りがした。
……なんか、嫌なことが起こる前触れみたいな感じであの事件以来こういうことが頻繁に起こるようになったんだよね。
嫌な予感…。
「氷雨家のこと、ちゃんには話しておくわ。」
突然、霞守ママが真剣な顔でそう言った。
…氷雨?春風さんの?