第7章 告げて
結局、私は夏の間ほとんどの時間を病院で過ごした。たくさんの人がお見舞いに来てくれるなか、順調にも程があるほど元気になった。
車椅子に自分で乗れる。杖があれば少しの時間だけど歩ける。自由に動けないこと以外は健康だ。手も動く。
点滴も外れて、リハビリも無くなって、薬も減って、介護されることももうない。
「……信じられないです、もう明日退院なんですね。」
退院の前日に来てくれたのは、無一郎くんだった。
実弥の次に足繁く病室に来てくれたのはこの子かもしれない。車椅子を押してくれたり、お見舞いにお菓子や果物をくれたり、色々としてくれた。
「……そうだね。」
遠ざけていた存在が目の前にいることに慣れなかった。前世で一緒に暮らしていたのが信じられない。
無一郎くんはここに来ると顔が真っ赤になるまでたくさんの話を聞かせてくれた。学校の話ばかりで、私にはわからないこともあるけど熱心に話してくれた。
実弥曰く、無一郎くんには私たちの関係は隠しているらしいのできっとこの子は知らない。余計なことは言わないほうが良いと思って私は時に話しかけることもなく、基本的に聞き手に回っていた。
「……あ、あの、師範、僕まだまだ話したいことがあって……退院してからも会いに行ってもいいですか?」
無一郎くんが笑顔でもじもじしながら聞いてくる。…慣れないなあ、この子がこんなににこやかにしてるの。本当の君がこんな朗らかだったなんて気づいてあげられなかったなあ。
「………そう言ってくれるのは嬉しいけど」
私は続けた。
「…難しいと思う」
ああ、ついに言ってしまった。…ほら、すごく残念そう。
でもダメなんだ。無一郎くんを前にすると私は言葉数が少ないし、顔を見る度に体調を崩すようになってしまった。
それでも会いに来てくれるから何度も頑張ってみたけど、一度過呼吸みたいになってその場に居合わせた実弥がびっくりしていた。
今も苦しい。だから、もうこれで…最後にして欲しかった。