第52章 今も、昔も
派手に転がって外に出たように思えたけど、あれだけ叫ぶことができるんだったら平気かな。
なんて、他人事のように思っていた。
「師範!!師範!!!!!」
無一郎くんが叫ぶ。
私はうつ伏せになって、上半身だけ外に出ていて下半身は完全に瓦礫に埋まっていた。下半身は…動かせる。上に乗った瓦礫は軽い。右腕も胴体は無傷だ。
けど、左腕が。
全く動く気配がない。もともと怪我はしていたけれど、完全に潰されてる。
「待っててください!今出しますから…!!」
「……ダメ、左腕が」
無一郎くんは懸命に私の右手を引っ張るが、なんの意味も無かった。
「無一郎くん」
「…んん…ッ!!」
次々と瓦礫をどかしていく。しかし、体育館が全壊するまでもうおそらく時間がない。
無一郎くんは外にいるけど、私はまだ中にいる状態だ。
「…もう、行きなさい…」
「嫌です!!絶対に師範をここから出してみせます!!」
「ごめんね」
なんの脈略もなく謝る私に、彼はキョトンとしていた。
私の右手を掴む手は、まだ幼いが確かに男の子の手だった。
「…君を、あの日、連れて帰ったのは……」
「今そんな話はいいです!!」
「いいから、聞いて」
無一郎くんは瓦礫をどかすのをやめて私の言葉に耳を澄ませた。
「君を連れ帰ったのは、お館様に、君は私にとって、必要な存在だと言われたから。」
「……」
「……あと…君の目が、キレイだと思って…」
ガラガラと倒壊する音は相変わらず続いていた。私の声はそれに負けるほど小さかったが、無一郎くんはしっかりと聞いてくれた。
「……私…青色が好きなんだぁ……」
自覚していなかったけれど、最近気づいた。些細なことだ。
見るたびに苦しいと思った。
けれど、私はやたらと青色の絵を描いてしまうし、空の色にも夢中になってしまう。
「…理由なんて、ないよ」
「……しは、ん」
「……ごめん…ね」
私は彼の手を一度だけ強く握った。
そして、すぐに離した。