第52章 今も、昔も
頭の中で陽明くんの声が聞こえて気がした。
しかし、その声をかき消すほどの騒音が体育館に響いた。
「……え?」
天井からパラパラと粉のように瓦礫が降ってきた。
「まさか、童磨くんが言ってた…計画は順調だって言うのは、このこと!?」
まだ諦めていなかったとは。
唖然としている私がどうしようかと考えを巡らせている時、無一郎くんが私の腕を掴んで引っ張った。
そのまま引きずられるように地面を這った。
「きゃあ!!」
するとさっきまで私がいた場所に大きな塊が落ちてきた。
……体育館の天井についてるスピーカーだ。
「まさか、天井全部落とす気…!?」
また爆音がする。もはや本能で交わし続けるしかなかった。
「逃げましょう、師範!」
無一郎くんは私の手を肩に回した。そのまま立ち上がり、私を引きずって歩き出した。
「やめて、お願い!置いていって!!」
「嫌です!一緒にここから出ます!!」
いくら前世では鬼殺隊だとしても、あの頃と同じ身体能力とは限らない。無一郎くんは小柄な方だし、満足に動けない私を連れてここを出るのは難しいだろう。
「もう嫌ですって言うのやめてよッ!!!」
「嫌ですッ!!!!!」
無一郎くんは確実に前に進んでいた。
…取り壊し予定とはいえ、体育館丸ごと巻き込んでこんな大それたことをしてくるとは思わなかった。
もうすぐそこに開いたまま放置されている私が入ってきた入口が見えていた。
しかしどんどん天井が崩れてきて、あたりは埃が舞っていて今にもむせてしまいそうだった。
最悪の状況だった。
そう。
まるで、霞の中のように。
_____霞?
『ただ、霞が見える…それだけです。』
陽明くんの言葉が頭に響いた。
私は咄嗟に無一郎くんを突き飛ばした。そのせいで無一郎くんは外に転がり込んだ。
(怪我をしていないといいけど。)
ああ、私ってば、こんな時まで他人の心配か。
1秒にも満たない時間だった。それだけしかなかった。
入り口の重く大きな扉にヒビが入り、崩れ落ちた。
取り壊し寸前の老朽化した体育館は限界を迎えていた。
「師範ーーーーーー!!!」
無一郎くんの叫び声がする。
私はなすすべなく崩れた扉の下敷きになった。