第52章 今も、昔も
そんな平和な様子を見ていると笑う余裕が出てきた。
「…、また随分と無茶をしたね。」
理事長は私のそばにしゃがみ込み、視線を合わせてくれた。
「でも無事で良かった。実弥は保健室の珠世さんに救急車を呼んでもらうよう、至急頼んできてくれるかな。」
「はい、わかりました。」
私は実弥にもたれかかるのをやめて自力で体を支えた。
彼はチラリと私の方を見たが、理事長に従ってすぐに体育館から飛び出していった。
「無一郎も早く行きなさい。有一郎がひどく心配していたから。」
「…僕はここにいます。いたいんです。」
「……そう。」
理事長はその頭を軽く撫でた。
「を頼むよ。私と巌勝は、警察の対応をしてくるから。」
そう言い残して二人は体育館から出ていった。
ついに私と無一郎くんの二人になってしまった。無一郎くんは気まずそうにこちらを見てくるが、私は敢えて無視をした。
「師範は」
無一郎くんが小さく話し始めてもその態度を変えなかった。
「どうしてあの日、僕の手を引いてお屋敷へ連れて行ってくれたんですか」
随分と懐かしい話だった。
私はそれに答えようかと悩んだが、その時またあの嫌な頭痛がした。
__アイツの計画は順調だ
__これで生き残ったのなら
__これで誰も死なせなかったのなら
__彼女は俺よりすごいってことだよね
__どうして彼女のような人がこの世に生まれたのかわからないけど
__彼女は、どうしてあんなにも人々を魅了するのだろう
__愛も言葉も知らないような小さな子供だった彼女が
__何も知らない子供に愛を与えた
__はるか昔の平安の世を生きていた俺にさえその愛を見せた
__彼女は自分を卑下するけれど
__俺の子孫は優秀だ
__そうだね
__でもまだまだ足りないものがある
__この未来を変えられたら、本物だよ
__さん
__あなたは嵐のように周りの人を巻き込んで
__救い、守って、その人の人生を変えてきた
__自覚はしていないのだろうけど
__今度は、あなたが自分で自分を変えるところを見せて欲しい
__その絶対的な愛を持って
__どうか、生きてみせて