第52章 今も、昔も
「どんなに大切なものがあっても、やっていいことと悪いことがあるわ」
代わりに、アリスちゃんが話した。
「…違う、私に石を投げたのも、童磨くんを守りたかったからだよね。童磨くんが手を染める前にって、そう思ったんでしょ。全部わかってるよ。」
「いいえ。何も違わないの。同じよ。…同じなの、あなたと同じことよ。」
アリスちゃんは悲しげに微笑んだ。
…同じ。
私が人を殺して喰らっていた鬼と……無惨や童磨くんと同じ存在であると認めるように、アリスちゃんもそう言うのか。
「残念だね、アリス。結局俺を裏切っても君の末路はコレだ。」
童磨くんはそんな彼女を嘲笑うようにそう言った。怒りたかったけど、その気力はなかった。
「そうね。」
アリスちゃんは、いつものように胸を張って堂々としていた。
「あなたが行くなら私もこの道を行くわ、童磨。同じ罪を背負って生きる。」
童磨くんがキョトンとするのに構わず、アリスちゃんは続けた。
「家族だもの。」
最後にアリスちゃんはにこりと笑った。
綺麗な笑顔だった。
手錠がかかる瞬間は見ていられず、床に視線を落とした。アリスちゃんと童磨くんは二人揃って刑事の人たちに連れて行かれた。
……二人とも、これからも兄弟のように…家族のように寄り添ったままでいてくれるといいな。
なんだか私が泣きたくなってしまった。
童磨くんが体育館から出ていったのを見ると、私は力が抜けて更に実弥にもたれかかった。
「師範」
すると緊張の糸が切れたのか、無一郎くんが動き出した。血をダラダラ流す私にあたふたしていた。
「……無一郎、そもそもお前はなぜここにいるんだ」
そんな無一郎くんに巌勝が話しかけた。
「ポスター作りたくて…」
「は?」
「ほら、これ」
瓦礫のせいでビリビリに破れたその紙には、将棋の拙い絵が描かれていた。
「受験生に向けた学園の説明会で部活体験の時間もあるから、その時用のポスターが作りたかったんだ。将棋部の部室は狭いし、体育館は今なら解体工事で誰もこないだろうって思って、こっそり…。」
「へえ。詳しく聞かせて欲しいな。…無一郎。」
巌勝に正直に話したところで、理事長が満面の笑みでそう言った。冗談めかしているだけだと私にはすぐわかったが、無一郎くんは青い顔で俯いてしまった。