第52章 今も、昔も
「私はもう黒死牟ではない。…お前とも顔を合わせることはないと思っていたが。」
巌勝ははあ、とため息まじりに言った。
「ここまでのことは全て体育館に設置した監視カメラで確認済みだ。」
「…カメラ?」
「ああ。……どこぞの子供が偉そうに指示を出したのでな。」
それを聞いて陽明くんのことだと思った。
その様子を見つつも私は次第に呼吸が荒くなっていった。…血が出過ぎているのかも。止血したいけど、今はあまり使いたくはないかな。
実弥が支えてくれているから、幾分か楽だけど…。
「証拠は抑えた。お前がこれまで起こしてきた事故のことについても、時間はかかったが関与した人間は全員産屋敷が特定済みだ。加えてお前の自白映像もある。」
「……」
「もうこれで言い逃れはできんな。」
巌勝がそう言い終わると同時に童磨くんに刑事さんが歩み寄った。
「さあ手を。お前を連行する。」
「…」
童磨くんは俯いていた。
「アリス」
「…」
「計画が全て思った通りに進んでることに変わりはないよ」
彼は氷のように冷たい目をしていた。
「近ごろ、我が校の生徒につきまとう不審者がいると通報があってね」
その時、理事長が話し始めた。突然のことに全員がギョッとしてそちらを振り向く。
「その生徒はすでに保護をした。君の最終的な狙いも全てこちらは未然に防いでいる。これ以上はもう無駄だよ。」
「……」
「紫の蝶の絵を見てすぐにわかった。君は、ずっとしのぶを追いかけていたんだね。」
その言葉にハッとする。実弥も、そばにいる無一郎くんも驚いていた。
「……そっか、…あの絵」
どこかで見たことがあるような気がしていた。ああ、なんだ。言われてみればそっくりじゃないか。
…ああ、そうだった。そうだったね。童磨くんは、最終決戦でしのぶを…。
よかった。無事なら、本当によかった。
「加賀美アリス、君にも逮捕状が出ている」
「…」
「わかるね」
ホッとしたのも束の間、他の刑事さんがアリスちゃんに詰め寄っていた。彼女は否定することもなく頷く。
「アリスちゃん」
「……」
思わず名前を呼んだが、そこから言葉が出てこなかった。