第51章 リスクヘッジ
童磨くんはにやにや笑っていた。
「さぁ。生まれちゃったところからじゃない?」
…否定できないことを言われた。
「君は得体が知れないよ。竜巻みたいに荒れたかと思えば枯れ木みたいに穏やかで、けれど中身は強靭だ。本当に、俺にとって魅力的な女の子だった。」
「……」
「でも、俺の手の届かないところまで行っちゃった。それがどんなに悲しかったか。君はあまりにも強くなりすぎていて、もう誰にも止められないところまで来ていたんだ。」
童磨くんはペラペラと話を進めた。
「だから君が弱るのを待った。仲間を殺して心を削った。そして、俺の思惑通り君はどんどん弱っていった。心じゃないよ。体だ。
今だってそう。もう立っているのもやっとでしょ?そうだよ。君はずっとそうだった。刀なんて振るえる体じゃないのに無茶を繰り返して最強剣士になった。
その代償と言ったら、もうとんでもないよね!鬼になろうがなるまいが、くたばってしまうようなボロボロの体で…良くあそこまで頑張ったよ!!俺は涙が出ちゃうよ!!」
彼はわざとらしく涙を流した。その顔は笑ったままで、こちらの神経を逆撫でしてくる。
またピキッとこめかみに血管が浮かんだ。
それでも私は冷静だった。
実弥ももう限界なのかさっきから怒りの感情が爆発寸前だし、後ろにはまだ無一郎くんがいる。
天井からはもう何も落ちてこないとは思うけど、あまり無駄口を叩いてもいられない。
「そう。その通り。君の言っていることは何も間違っていないね。それは紛れもない私の過去であり、事実だから、否定できることは何もない。」
「っ師範!!」
無一郎くんが弾かれたように叫んだ。そして駆け寄ってきたかと思えば、私の右腕を掴んで揺すってくる。
「なんでこんな奴の言うこと黙って聞いてるんですか!俺が「時透」」
そんな無一郎くんを止めたのは他でもない実弥だった。
ゾッとするくらいの怒気を隠すこともなく剥き出しにしながらも静かにそこに立っていた。
「言いてェことは俺も同じだ。今は黙ってろ。」
無一郎くんは何か言いたげだったが黙った。
私はふう、と息を吐き出した。