第51章 リスクヘッジ
「無一郎くん」
彼から体を離して青い目を見つめた。
「私のことは忘れなさい。」
「僕は…!!!」
私は無一郎くんの言葉には答えずに無理やり足に力を入れて立ち上がった。
右手で実弥の肩を叩いた。
「ありがとう」
小さくそう言うと、実弥はグッと唇を噛んだ。
「いるのはわかってる」
静かに。それでも響く声で。
「出てこい」
数秒後、童磨くんは姿を現した。
「あーあ。せっかく仕込んだのに。」
体育館の外から揚々と。
鍵がかかっていると思っていた正面の入り口から堂々と入ってきたのだ。
「さすがだなぁ。あれを避けるとか本当に人間?子供たちまで守ってさあ…。」
「……」
「でももうボロボロだね。致命傷…とまではいかないかあ。」
童磨くんはやれやれ、と頭をかいた。
「柱って防御力も高ければ怪我の治りもはやいんだから厄介だよ」
「……そう。こんな大掛かりなしかけを用意したのに残念だったわね。」
「全くだよ。体育館工事の人たちを買収するの、大変だったんだけどなあ。」
童磨くんはあっさりと白状した。
「……」
しばらくの沈黙が続いた。
「氷雨春風、安城天晴、桜ハカナ、桜ハルナ、木谷優鈴……そして、粂野匡近、胡蝶カナエの事件もあなたがやったのね。」
「…まあ、バレてるなら誤魔化してもねえ。そうだよ。」
「………あんな、ひどいやり方で」
私は拳を握りしめた。
「どうして君が偉そうにそんなことを言うの?」
「童磨くんも私がそちら側だって言いたいんでしょう。それはその通りだと思うよ。」
人を殺して鬼になった。
その過去も事実ももう変わることはない。変えられない。
「そうだね。どうしてかな。」
ピキッ、とこめかみに欠陥が浮かび上がる。
「どこで間違えたんだろうね」
目の前が真っ赤に染まる。
同じだ。あの夜と。黒死牟と闘ったときと。