第51章 リスクヘッジ
「二人とも今すぐここから出て!!!!!」
気づけば私はスマホを放り投げ、体育館の扉を開けて中に向かって叫んだ。
「え!?あ、「早く出て!!」」
中にいたのは中等部の男子生徒二名。気配でわかる。有一郎くんと無一郎くんだ。
「ってアンタ、先生じゃない…?」
「師範…!!」
無一郎くんは慌てた様子で私の方に向かって走ってくる。
「待てよ」
「兄さん」
「おかしいだろ、なんで先生でもないこの人がここに……」
有一郎くんの言い分ももっともだったが、そんなことを言っている場合ではなかった。
頭痛は勢いを増すばかりだし、耳鳴りもひどかった。
ピリッと嫌なものを感じた時、私は動いていた。
「危ない!!!!!」
ミシッ、と音が聞こえた。真っ暗な体育館の天井がきしんだ音だ。
一瞬で二人の元に走り込み、二人の背中を思い切り突き飛ばした。
もうそこからは騒音が体育館の中に轟き、何が何だかわからなくなった。
「師範ッ!!!!!」
無一郎くんの声がした。
けれど、私にその姿は見えなかった。
天井から何かが降ってきた。スピーカ?電球?バスケットのゴールだろうか。はっきりとはわからないけれど、かなりの重量だ。
「師範!!師範!!」
「ばかっ、無一郎やめろ!!危ない!!」
「嫌だ!!離せっ、離してよ兄さん!!師範が!!!!!」
何が起きたのかわからない。状況が把握できない。何かしらの衝撃で体がピクリとも動かなかった。
天井から落ちてきた瓦礫に囲まれて私はその場に倒れていた。
体には当たってはいないけど、具合が良くないのに本気で動いたから反動で動けないのだと少し後に気づいた。
……情けない。
「無一郎!!先生か誰か呼んでこないと!!俺たちが何やったって無理だ!!」
「嫌だってば!!」
「…!!俺が呼んでくるよ!!!」
無一郎くんがいうことをきかないことに諦めをつけ、有一郎くんが走って体育館から出て行く足音が聞こえた。
それに対して、無一郎くんはこちらに駆け寄ってくる。
「師範!!」
「…だ…、だいじょう、ぶ」
目の前がチカチカしたが、なんとかそう答えた。起きあがろうとしたらあたりの埃でむせてしまった。