第51章 リスクヘッジ
体育館に行くためには磨た外に出ないといけなかった。
もうすっかり真冬で、息を吐き出すと白い息が口から漏れた。体育館の重い扉を開けようとしたが、真正面の扉は鍵がかかっていた。
母さんが中から閉めたのだろうか。
仕方なく今いる扉から離れた裏口へ回った。扉に手をかけると、そこは開いていた。
母さんはどれだけ騒いでいるのか、と思いながら冷え切った体育館に足を踏み入れた。
電気がついていなくて真っ暗だったが、人の気配を感じた。
「兄さん、将棋部のポスターはこんな感じでいい?」
「いいんじゃないか。」
聞き覚えのある声にギョッとした。
「あれ?誰か入ってきた?」
「先生じゃない」
どうやら真っ暗な体育館の中からは私は逆光になっていて見えないらしい。
その時、スマホがまた鳴った。
私は体育館の扉を震える手で閉めてから通話ボタンを押した。
『お前、今どこにいるんだ!!!』
実弥の怒鳴り声に心臓がどくん、と跳ねた。
「た…」
『あ!?聞こえねえよ!!!』
「体育館」
何か、見覚えのないはずなのに、確かに目にした光景が脳裏をよぎった。
『はあ!?何言ってんだ、体育館は建て直しの予定で今は電気も通ってねェぞ!!』
「………」
『とにかく、今すぐ戻ってこい!!』
咄嗟にスマホの履歴を確認する。
確かについさっき、実弥から着信があったはずなのに、履歴から消えていた。
「でも、体育館に人がいたの」
私がそう呟いた時に電話が切れた。
……スマホがおかしい。何度画面に触れても全く反応を示さなくなった。完全に固まって、やがて勝手に電源が切れた。
故障というには不自然すぎたしタイミングが最悪だ。
その時、嫌な痛みがした。
頭が痛い。それは立っていられないほどで、私はそこにしゃがみこんだ。思わずぎゅっと目を瞑ると、そこには真っ暗な空間が広がっていた。
_____真っ暗な空間で走っていて、それで私は
___私は、真っ暗な場所で
そうだ。これは夢だ。つい最近見たあの夢だ。
誰もいない空間で、私は______。