第6章 桜は散りて
「…怒ってないよ。」
私はその目を見つめ直した。
「桜くんはすごいな。全部秘密にしたまま…死んでいったんだね。」
「…すごくないよ。……皆をだましたクズだよ。」
桜くんはうつむいた。
「……どうして怒らないの。最低でしょ。だって僕ら鬼殺隊なんだよ、鬼になっちゃダメじゃん、ちゃんと鬼を斬るために頑張らないといけなかったのに。」
「でも、桜くんは必死に頑張ってたでしょ?誰も怒らないよ。ただ、怒るなら秘密にしなくてもよかったってことかな。あんなに鬼が嫌いな桜くんが鬼になってくれなんて頭を下げたんだから、私たちも頭ごなしに否定したりしないよ。」
私が笑って言うと、桜くんはついに泣き出した。
「……なんで」
「…桜くん?」
「なんで怒ってくれないの、僕は後世に託すことができなかったんだよ。信じられなかった、他の誰かが鬼を滅殺するなんて考えられなかった。馬鹿でしょ?」
「……そうじゃないでしょう、桜くん」
頑張って手を伸ばして涙を拭う。
もう随分と大きくなった。私の手が彼の顔にあると小さく見える。前世では私とあまり変わらないほどの体格だったのに。
鬼がいなくて、死ななければ前世でもこうだったはずだ。未来が、未来さえあれば。
「あんなに頑張ってたのに、そんなこと言わないで。」
「……霧雨さん」
「怒ってない、怒ってないよ。私は桜くんのこと信じてた。わかってたから、大丈夫。みんながいなくなって寂しかったけど、鬼殺隊から離れるのは悲しかったけど、私あなたのことを忘れたことなんてなかった。
みんながみんなを思いやってお互いを支えた。誰かにできないことは他の誰かがやればいい。桜くん、あなただってそうでしょう。生身の人間が鬼に殺されるのを見るのが辛かったんだよね。」
桜くんはメソメソと泣き続けた。
いつも見栄っ張りで内弁慶な彼が甘えたような素振りを見せてくるのは珍しかった。