第50章 鬼、鬼、鬼
家に帰ってからすぐ陽明くんに電話をした。
「もしもし、今大丈夫?」
『うん。まあ、何の用件かも何をしゃべりたいのかもわかってるけど。もうこのままでいいってことでしょ?』
そう言われて苦笑した。あぁ、連絡する意味なんてないじゃないか。
『俺に見えている未来は決して明るくないです。』
「うん。」
『良いんですね』
「うん」
電話の向こうが少しだけ沈黙した。
『ごめんなさい』
突然、今にも泣き出しそうな声が聞こえた。
『救えなくてごめんなさい』
陽明くんがそう吐き出した。
………
あぁ、この子は今まで何度もそう思ったのだろう。
「まだ何にもわからないよ。それは私が……いや、言わないよ。縁起が悪いね。」
『……』
また沈黙。今度はグズッ、と鼻をすする音がした。
『それと、最近学園の先生たちがさ、学校に来いってうるさいんだよね』
「…そう」
『学校ってそんなに大事かな。阿国は楽しいって言うけど、俺は家で好きにしてる方が楽しいや。』
打ってかわって楽観的な話になった。…あれ以上話すと辛かったのかもしれないな、と思って私はその話に乗った。
「私は先生じゃないし、行きたくないなら良いんじゃないって思うよ。」
『うん、俺たぶん学校アレルギーなんだ。』
おかしなことを言うなぁと思ったが、彼は真剣なようだったので真面目に聞いた。
『…さんはさ、自分の力がなかったらって思ったりしない?』
「しないかな。」
躊躇いもなく、あっさりと答えた。
「ただでさえポンコツなのに、ないと困るよ」
『………俺はのしつけて神様に返してやりたいよ』
「そう。」
私はしばらく考えた。
「君も、学校や自分の力が大好きになって、夢中になるかもよ。」
『…そんな未来、見えないけど』
「いつかね。百年後かもよ。いつか陽明くんも、周りに何を言われても自分の意地を通したくなる時が来るんだよ。」
『………さんはあるの?』
「正しく、今だね。」
ついに耐えられず、クスクスと笑ってしまった。
『そっか』
「そんなもんだよ」
私たちは長々と話したあとに電話を切った。
陽明くんの声が初めより明るくなっていたので、私は勝手にホットしていた。