第50章 鬼、鬼、鬼
目を覚ますと、部屋には私しかいなかった。
ふらふらと寝ぼけたまま立ち上がって、リビングに向かう。
着崩したスース姿で、大きな欠伸をしながら朝食を食べる実弥がいた。その向かいの席には私の分の朝食まで置かれていた。
「おはよう」
「ん」
実弥は口をモゴモゴさせて、チラリと振り返った。
その姿を見てなんだか涙が込み上げてきて、私は彼に思い切り抱きついた。
「んっ!おまっ!おい!!!」
「ううううううううううう〜!!!!!!」
「あ?なんだ、なんだ、挨拶適当にしたからか?ごめんな、おはようって!お前のコーヒー入れるから、な?」
実弥はそう言った後、…あ、お前コーヒー今は飲めないよなとぼやいた。
「麦茶でいいか?」
「うんーーーーーーー…」
「お前が離れないと動けねえよ。」
彼は抱きつく私の手を軽く叩いた。
私はそうしないといけないのはわかっていたが、離れなかった。彼の背中に顔を押し付けたままだった。
「実弥、仕事行かないで」
気づけばそんなことを話していた。
弱々しくて、今にも泣きそうな情けない声だった。
「……は…?」
実弥が何か言う前に、私はパッと離れた。
「麦茶よりも牛乳がいい!!人肌の温度で、ぬるいやつ!!熱いのも冷たいのも嫌だからね!!じゃあヨロピクっ!!」
「要望が多いな!?」
早口かつノンブレスで無茶振りをし、私は自分の席に座った。
実弥はぶつぶつ言いながらも牛乳を温めていた。私はその様子を見てバレないように少しだけ肩を落とした。
夢のせいだろうか。なんだか、非常に心細くなってしまった。