第50章 鬼、鬼、鬼
無一郎くんは何を言われたんか呆然として微動だにしなかった。……大丈夫だろうか。
「それで、何があったと?」
車が走り出したと同時に巌勝が聞いてきた。
「陽明くんから不在着信があったの。」
「…何かあったのか」
「そうみたい。電話をかけなおしたけど別の人が出た。」
阿国のことは彼には言わないほうがいいと思い、名前は伏せた。
「陽明くん、今日は学校を休んでいるらしいの。…学園に近づいてはいけないって言っていたらしくて。」
「…なるほど。では、学園で何か起きているのか。」
「本当は今すぐ見に行きたいけど…。」
「わかった。獪岳と鳴女に頼もう。」
赤信号で止まっているうちに巌勝はさっさとスマホでメッセージを送った。
しかし私はある可能性に気がついた。
「待って。なんか変だよ。…学園で何か起きているなら、陽明くんはわざわざ学校を休むかな。」
「ああ。そうだな。自ら問題を解決するために動くだろう。」
巌勝は眉間に皺を寄せた。
「もう一度陽明に電話をかけろ。」
「わかった。」
私は履歴に残っている番号に電話をかけた。
ワンコールで向こうは電話に出た。
『もしもし』
電話に出たのは阿国でも陽明くんでもなかった。
……この声、もしかして…。
「こんにちは。霞守陽明くんはいらっしゃいますか。」
『息子にご用ですか。すみませんが、どちら様で、息子とはどのようなご関係でしょうか。』
やはり陽明くんのお父さんだ。
『霧雨と申します。陽明くんとはお友達で、折り返しの電話とお伝えしていただければ彼もわかると思います。」
『…霧雨?』
「はい、私は霧雨ですが…。」
電話の向こうが沈黙した。
『間違っていたら申し訳ない。ひょっとして君はヨウコさんの娘か?』
そう言われて今度は私が沈黙した。
…ヨウコ、というのは私の母親の名前だった。どうしてこの人がそんなことを知っているのだろうか。