第50章 鬼、鬼、鬼
巌勝が外で無一郎くんと何かを話していた。時たま怒鳴り声が聞こえて耳が塞ぎたくなった。
私は外から目を逸らしてスマホに目を落とした。
何だか気分が悪くて後部座席に寝転んだ。…何だか変な感じがする。
スマホに不在着信が数え切れないほど入っていてそれに目を止めた。
…知らない番号、だけど。
『変な気配がしたら俺から連絡しますね』
陽明くんの顔が頭に浮かんだ。私は慌てて電話をかけなおした。
(……誰も出ない?)
最後に電話がかかってきたのは3分前。…もう電話の前にはいないのだろうか?いや、そもそも今は平日の真昼間。…不登校気味だとは聞いていたけど、今日は学校に行っていないのだろうか。
いいや、そもそもこれは本当に陽明くんなのか?まさか、何かあったとか?そういえばさっきから悪寒がするような…。
『もしもし』
色々考えを巡らせていたとき、か細くて弱々しい声がした。
「…その声、阿国なの?」
『………?』
「そうよ、。さっきから電話をかけてきたのはあなた?」
阿国の声は今にも消えそうだった。私はなるべき落ち着いて、ゆっくりと話した。
『ううん、兄さんだと思う。さっきまでずっとどこかに電話かけまくってたから…。』
「今はいないの?」
『ええとね、…その、電話かけすぎてるとこママに見つかって、今お説教中で…』
…ああ、それは…なんとも言えない。ご愁傷様というか。
「二人とも、今日は学校に行ってないの?」
『兄さんが行っちゃダメって言うから仮病。』
阿国はくすくすと電話の向こうで笑っていた。ああ、仮病で休んでたのに家で鬼電ぶちかましたから余計に怒られてるんだな。
『部屋から出てるのがバレたら私もまずいから、そろそろ切ってもいい?』
「あ、うん。」
『バイバイ。も学園には近づいちゃダメよ。』
そう言われて電話は切れた。…あの、めちゃくちゃ今学園の近くにいるんだけど。
「巌勝!!!」
私はすぐに車のドアを開けた。
「、どうした」
「後で話す、いいから車出して!!」
「…そうか、わかった」
特に何も言わなくても感じ取ってくれたらしい。彼は無一郎くんに一言二言告げて、運転席に乗り込んだ。