第49章 ジハード
理事長に別れを告げて宇髄先輩と廊下を歩いた。少し前から部屋の外で感じていたあの気配は消えてしまっていて、そこには誰もいなかった。
「霧雨、ちょっと校内見て行くか?」
魅力的なお話だったが、首を横に振った。
「…そうか。疲れたか?」
「いえ、その、会ったら困る人もいますし…。」
「それは俺か?」
後ろから声がしてギョッとした。先ほどは誰もいなかったのに今ははっきりと見える。
「わ、愈史郎さん」
「山本ぉ!?てめっ、どっから出てきやがった!!!」
「どこでも良いだろう。輩教師め。」
愈史郎さんは大きくため息をついた。
「珠世様に感謝するんだな。この場を設けてくださったんだ。本来ならお前を引っ張って土下座させるところだが、今はお仕事をされている。」
「ええ。また連絡するわ。」
驚く先輩をよそに私たちは普通に話していた。
「愈史郎さんもありがとう。」
「うるさい。」
彼はふっと微笑んだ。
「お前はただ突っ走っているのが似合う。」
「……苦労をおかけします。」
「今更だ。お前は本当にわがままで、勝手で、俺たちを振り回してくれた。」
彼はひらひらと手を振って愈史郎さんは去っていった。
「霧雨はモテモテだな。」
「へ?」
「人たらしだ、人たらし。」
「なっ!?ひどくないですか?!」
宇髄先輩は愈史郎さんの背中を見ながら、目を細めて微笑んだ。
「まっ、ド派手に頑張れや!」
「…言われなくても、いつも頑張ってます!」
意地になってそう返した。
先輩とは玄関で別れて、私は学園をあとにした。校門を出て角を曲がったところで、気配を感じた。
そこには一台の黒塗りの車が停められていて、そばにはアイツがいた。
「用は済んだか」
「巌勝…え、まさかついてきてたの?」
「お前は今自分の置かれている立場を理解しているのか?一人で外に出すわけがないだろう。陽明からも頼まれているからな。」
ギロリと睨まれて思わず目を逸らした。
「お前、事態をわかっているのか。この状況下にその体で出歩くとはどういうつもりだ?子供もろとも死にたいか。」
「…ちょっ、ちょっとなんで知ってるの?!私あなたに言ってないのに!!」
巌勝は静かにしろ、と言わんばかりに口元に人差し指を添えた。慌てて私はキュッと口を閉じた。