第6章 桜は散りて
優鈴とハルナちゃんの話を終える頃には私も落ち着いてきた。
実はずっとうずうずしていたんだ。誰かに言いたくてたまらなかった。
「俺に話していいことなのかよ」
「実弥は誰にも言わないでしょう?」
「いや、言ってもしょうがねえだろこんな話。」
実弥は顔をしかめた。
「しっかし、やっぱり俺はあの人と分かり合えねえな。」
「優鈴のこと?」
「わかんねえ。自分を好きだって思ってる女の子を蔑ろにするところとか、全然わかんねえ。」
怒った気配がする。
…なんか、優鈴が絡むと様子がおかしくなるな。
「優鈴は優しいから、自分のせいでハルナちゃんに傷ついて欲しくないだけだよ。」
「俺らにあれだけ言っといて、自分はそれで良いのかよ…。」
「良いの。」
私が迷いなく言うと、実弥は驚いていた。
「優鈴はね、本当に優しいんだよ。自分のせいで誰かが傷ついたり、嫌な思いをするのが嫌で嫌でたまらないの。……ただ、それだけ。そのために自分がどうなったって、誰かが傷つくこともなく笑っていたら、幸せでたまらなくて、ふにゃって笑うような子なの。」
はるか昔を思い出す。
夢よりもっと前の、昔のことを。
「だから、自分で自分を殺してしまったの。」
実弥はぐっと拳を握りしめた。
「わからねェよ。お前のことも、桜の妹のことも、結局あの人は傷つけてんだ。」
「それが優鈴の優しさなの。」
私はそっと目を閉じた。
「残酷で、救いがない、優しさ。」
私の声だけが病室に響いていた。
「だって、言えないでしょ。」
その声は少し震えていて。
「そんなに、優しいのに、ダメだって、あなたは間違ってるって、言えないじゃない。」
それに気づいてか、実弥が私の頭の後ろに手を回して、そっと抱き寄せた。
「言えないんだよぉ………」
私は泣きそうになったけど、堪えた。
実弥は何も言わずにずっと抱きしめてくれた。