第49章 ジハード
「おい、俺を置いていくなよ?」
宇髄先輩がやっとそこで言葉を発した。
「“あの”霧雨ってなんのことですか?」
「そうか。天元はあの頃のを知らないんだね。…知らなくてもいいことだけど。」
理事長は困ったようにそう言った。
「私は鬼殺隊に入った頃、なんていうか……そうだなあ、私自身は“ドロドロ”って呼んでるんですけど、そんな自分に飲み込まれていたんです。」
「はあ?」
「私にもよくわかりません。けれど、その私は平気で人を殺せる。」
不穏な言葉に先輩が顔を硬らせた。
「私の気配察知が異常なのはご存知かと思いますが、それで…その、なんというか、ピリッときたらもうダメなんです。その時点で私は誰かを傷つけていました。
その私をおさえてくれていたのが、春風さんであり、天晴先輩であり、桜くんであり、優鈴だったんです。
でもその四人は私よりも先にいなくなってしまったんです。」
「……今でも、それは健在なのか?」
私は頷いた。
「童磨くんが求めているのは“ドロドロ”の私。……きっときっかけさえあれば、またすぐに出てきてしまう。」
自分で言っていて不安になってしまう。情けない。
「鬼殺隊に入るまで、私はずっと狭い部屋に一人でいたんです。きっと、そんな世界から自分を守りたかったのかもしれない。ドロドロは私に染み付いた本能のようなもので…安城殿は条件反射みたいなものって言ってたけど…。」
私は頭をなやませた。どうも適切な言葉が出てこなかったのだ。
宇髄先輩はそれでも無理に納得してくれた。
「わーったよ。んで、お前は童磨と対峙するために事故に遭うってんだな?」
「が決めたことだ。誰も止めはしないよ。」
「…だが、事故にあった奴らは全員重症だ。回復できるかもわからねえ。お前は本当にそれでもいいのか?」
宇髄先輩は念押しのように聞いてきた。
「いいえ?」
「は!?」
「はってなんですか!?私だって痛いのも辛いのももううんざりですよ!!」
私はさも当然と答えたのだが、宇髄先輩はさらに混乱してしまったようだった。