第49章 ジハード
本当はもっとずっと前から、覚悟はできていたのだけれど。
いざ口に出すのは初めてだ。
「私が被害に遭ったタイミングで童磨くんに仕掛けます。一つ崩れれば全て崩れるものです。だから、あの四人の罪も償わせることができます。」
「どうして、そう言い切れるのかな。」
「童磨くんは私に自白しています。逃げ道がなくなれば勝手に自分で言うでしょう。」
「なるほど。」
理事長は頷いた。
「はそれが最適解だと思ったのかい?」
「はい。…ですが、これは私のわがままです。」
私はその時、宇髄先輩と理事長以外に気配を感じた。
…はあ、本当に心配性というか、過保護というか。
「あの四人は、私がこんなことをしようとしていると知ればすぐに止めるでしょう。そういう人たちです。けれど、あなたもご存知の通り私にとってあの人たちはかけがえのない人たちです。」
「うん。…わかっているよ。苦しむ君をずっと見てきたから。」
理事長は否定しなかった。
「童磨が抱く“あの”に対する執着心は本物だと思うよ。」
「はい。」
「自分をおさえられるかい?」
そう言われて、私はしばらく固まった。
……そうだ。この人と会った時、私は“ドロドロ”だった。危害を与えてくる相手には暴れて抵抗した。
噛み付いて、引っ掻いて、怪我をさせた。子供とは思えない力で人を傷つけた。…そうして父親を殺した。
あの時の私に自分はなかったと思う。
私が私ではなかった。記憶もおぼろげだ。
童磨くんを相手にも微かにあの私が出てきた。その時は春風さんが私の元へ駆けつけてくれたから踏みとどまった。
はい、とは答えられなかった。その自信が私にはないから。
でも。
「きっと」
そう答えることはできた。
理事長はにこりと笑った。
「そう言えるのなら大丈夫だね。」
私はその言葉に笑顔で返した。