第48章 霞の女
思わぬハプニングに見舞われたが、理事長にソファーに腰掛けるように言われてフカフカのソファーに座った。
どうやらこの場には宇髄先輩も同席するらしく、私の隣に座った。お茶を用意してくれていたようで、麦茶が出された。
「ええと…その……お顔のそれは…」
「ああ、この顔かい?」
一番気になっていたことを聞いてしまった。でも聞かずにはいられなかったのだ。
私が在籍していた頃にはなかった。綺麗なお顔だったのに、前世と同じような痣が顔に広がっていたのだ。
まさか…またご病気なのだろうか。
「おい、失礼だろ!」
「いいんだよ、天元」
理事長は優しく微笑んだ。たまらず先輩が黙り込んだ。
「ちょっとした事件があってね。」
「…事件?」
「通り魔が薬をかけてきたんだ。劇薬だったようで、このようになってしまったけれど、体に異常はないから大丈夫だよ。」
その事実に驚愕した。
「……な、なんでそんなことが…まさか無惨が!?」
「いいや、違うよ。私と彼は顔が似ているからね。恐らく間違えられたのだろう。いいんだよ。私はこの通りなんともない。」
……知らなかった。
いったいいつなんだろう。こんなことも知らないで私は、守ろうとしていたのだろうか。
「も辛いことがたくさんあったんだね。ずっと心配していたんだよ。」
「……いえ」
理事長から感じる感情は本当に優しくて、あたたかかった。
「みんなが、いてくれるからです。もう辛さから逃げ出したりする私ではありません。私の方こそなんともありません。そんなお言葉はいただけません。」
「は一度も逃げ出したことなんてなかったよ。最後まで寄り添ってくれた。君が気兼ねなくたくさん話をしてくれるから、とても楽しかった思い出ばかりだよ。」
鬼になって鬼殺隊を捨てた私を、この人はこんなふうに言うのだろうか。…鬼殺隊として生きる道を選ばなかった私を。
正しい道を選んだと私は思っている。なにも後悔はない。けれど、どこか後ろめたい気持ちがこの人にはあったんだ。