第48章 霞の女
ああ、きっと本物だったのだろう。
この人が鬼殺隊にいた私にくれた愛情も優しさも、今ならわかる気がする。
あまりにも人が死んでいくものだから、私は辛くて辛くて、いつだって泣き出してしまいたかったのを…。
この人は知っていたのかもしれない。
「今日は元気な姿が見られてよかったよ。けれど、私や子供達のためにたくさん無茶をしたと聞いているよ。」
その言葉にぎくっと硬直した。
…ていうかさっきから気になってたけど逐一この人に報告してるのどこの誰だよ。マジで勘弁してくれよ。
さっきからずっとお説教を受けてる気分なんですけど…。
「もうしてはいけないよ。今は一人の体ではないのだから、なおさら気をつけなくてはいけないね。」
「はい………」
もはや言い返す言葉も出ない。ああ、これはいかんやつだとこれでもかと目を細くして遠くを見つめた。
「……一人の体じゃない…?」
その時、隣で宇髄先輩が震える声を発した。
「え、は…?おっおい、霧雨…」
「…しまった」
「しまったって、おい」
先輩は冷や汗を垂らして苦笑い。私はたまらず口元をおさえた。
…てか、え?
……………実弥、教えてなかったのか
…待てよ、ていうか、私も誰にも言ってないかも。いや、友達は少ない方だと思うけど。でもカナエと悲鳴嶼先輩…あと天晴先輩には言った。あ、けど、それ以外の人たちって。
………。
色々あって、全部忘れてた…。
そっかそっか。報告しなきゃいけないことだよね。ああ、やばい。まずい。これはとてもまずいのではないか。
ていうか実弥黙ってたのはなんで。
…ああ、そんなことも気付いていなかった。
「…もしかして、みんなにはまだ言っていなかったのかな?」
まだっていうか完全に忘れてました。
「二人のタイミングがあっただろうに、ごめんね。申し訳ないことをしてしまった。」
いいえ。あなたは何も悪くありません。
青い顔で固まっている私と、苦笑したまま私を凝視している宇髄先輩と、申し訳なさそうに謝る理事長……。
気まずい雰囲気が一気に広がってしまった。頭が真っ白になってしまい、私はただただ沈黙を貫いた。