第6章 桜は散りて
実弥はベッドのそばに腰かけるや否や、申し訳なさそうな顔をした。
「その、この前は悪かったな。」
「ああ、良いの。優鈴が怒ってくれたから、私は許すことにした。」
別に怒っていないのだが、優鈴があんなに散々言ったんだから、私からはもう何も言わない。
「だからおしまいにしよう、この話。」
「…ああ。」
実弥はまだ気にしているみたいだったけど、すぐにいつもみたいに優しく微笑んだ。
「今日は顔色がいいなァ。」
「…うん。先生がね、これくれたの。」
私は鉛筆とスケッチブックを見せた。
「!絵が描けるのか?」
「そうなの!手がね、勝手に動いてね…。」
私は一番最初のページを見せた。
「ほら。」
おはぎの絵を見せると、実弥は吹き出した。
「ははっ、ずいぶん可愛いなあ。おはぎのやつ、お前が寝てる間大変だったんだからな。」
実弥は、私の頬に手を当てた。
「帰ったら甘やかしてやってくれよ。寂しいんだよ、アイツは。」
私はその手が少しくすぐったかった。
すぐにその手は離れて、実弥はスケッチブックに視線を落とした。
見たそうだったので渡すと、ぱらぱらとめくっていった。
「うめえなあ。」
「失礼なこと言うのね。」
「何だよ。素直な感想だろうが。」
実弥はそう言うが、私はムッと頬を膨らませた。
「じゃあ聞くけど、実弥はゴッホとかピカソに絵が上手ですねって言うの?バッハとかブラームスに作曲が上手ですねって?偉大なユーグリットに素晴らしい数式ですねとか言う?」
「…言わねえよ、そんな当たり前のこと。」
「じゃあ言わないでよ。」
実弥は罰が悪そうな顔をした。
「ええと、じゃあ…。その、何つーか……線が細かいっつーか。」
「ふっ…ふふふふふ、冗談だよ!実弥に本格的な好評期待してないって、ぷっ、ふふ、ふ。」
「腹がよじれるほどおかしいかァ!?」
実弥はお腹を抱えて笑う私に怒鳴った。