第6章 桜は散りて
私はたくさん絵を描いた。
スケッチブックの残りページがどんどん減っていった。
自分が何の絵を描いてるのかよくわからなかった。
けれど、見返すとそこにはキメツ学園の教室、高校のグラウンド、大学のアトリエ。思い出ばかりだった。どれもこれも忘れていた。
目覚めてからずっと思い出せなかった。記憶に穴が空いていた。医者に相談するとすぐに元に戻るだろうと言っていたがずっと不安だった。
最後に描いた絵を見る。
それは、男の人の似顔絵だった。
誰だかわからない。けれど見た目は好きだった。
私は似顔絵を二つ描いていた。
二つとも男の人で、非常に顔が似ていた。双子のようだ。
一枚目は凛々しい顔で、きっと何かを睨みつけるような眼差しが特徴的だった。
二枚目はどこかぼんやりとした顔で、虚空を見つめているようだった。
共通しているのはその顔立ちと、何やら変な…痣のようなもの。全く同じ形のものだった。
二枚目の人は、耳飾りをつけていた。
…この柄、どこかで見たような……?
似顔絵の二人は微笑んでいた。幸せそうな、笑顔だった。
「……何でこんなの描いたんだろ。」
私はそのページを切り取って捨ててしまおうとした。
だって、なんか君悪いもん。
二枚目の絵は綺麗に切り離せたけれど、一枚目の絵は失敗してビリッと破れた。
ちょうどその時、病室の扉が開いた。
「悪い、今日こないつもりだったんだが…。」
実弥だった。
つい昨日きたばかりなのに。
私はにこりと笑って、彼を迎え入れた。