第47章 大正時代にお薬どうぞ
すう、と呼吸を整えて心を落ち着かせる。心は落ち着かせるもんだと教わりました。
私だって。まだ。
まだ何もなし得ていない。過去の仲間たちの仇を討ててはいない。きっと、これからも不可能だろう。
「私は、あなたが無事でいて嬉しいですよ」
その言葉に不死川くんは答えなかった。
そのままお互い無言で待っていると、胡蝶姉妹がやってきた。
「霧雨さん、調合終わりました。」
「ありがとうございます」
しのぶから紙袋を受け取り、中身を確認する。薬の瓶が二つ入っていた。
「お代はこれで足りますか」
「あら、それはいいですよ…」
「ではお小遣いとして。おまんじゅうでも買ってください。」
「もう!子供扱いして!」
胡蝶さんは怒ってはいたが、押し返すようなことはしなかった。しのぶはちょっと嬉しそう。この屋敷にいる子達の分は買えるでしょう。
「たくさん用意してくれたので、不死川くんにもあげますね。」
「…いらないですよ。」
私は彼の側にしゃがみこんだ。
「見ればわかります。今回は傷を放置して任務を続け、それで悪化したのではありませんか。傷によく効きますよ。」
「だから、大袈裟…ッ!?」
不死川くんが何か言う前に、私はピトッと彼の頬に薬を付けた。
「塗り込むと、傷のかゆみがなくなりますよ。あと回復もはやくなります。私用に調合してもらったものですが、君にもいいと思います。」
「や、やめろ!!!」
「はい、動かない、動かない…」
抵抗する彼の顔をひっぱたく勢いでおさえこみ、むぎゅむぎゅと薬をもみこんだ。
胡蝶姉妹は唖然としてその様子を見守っていた。
彼が放置している傷にも塗り込んでやった。左腕に確かにひどい傷があったが、適当に自分で処置して終わったらしい。包帯には血がにじんでいた。
不死川くんは暴れまわっていたが、私はおさえこんだ。こんな子が暴れたところで私はびくともしない。
「あなたがそんなに喚いたところで、私は怖くもなんともありませんよ。」
「ッ離せっつってんでしょうが!!!!!!」
何がそんなに気に食わないのか知らないが、不死川くんを後ろから抑え込んで治療を終えた。