第46章 お薬どうぞ
寝る前にはすっかり薬でテカテカになり、それでも満足げに自分の部屋に向かう。
その背中を見てほとほと呆れてしまった。
私がゲンナリしていると、スマホが鳴った。見慣れた名前に安心して電話に出ると、元気な声が聞こえた。
『どーもこんばんはー』
「桜くん、こんばんは」
『うんー…』
桜くんだった。目が覚めたということは聞いていたので、あまり驚きはしなかった。
桜くんはまだ面会ができる状態ではないが、動き回って病院の人を困らせているという。
事故にあった全員、人間とは思えないスピードで回復しているらしく…どうやら鬼殺隊としての力は健在らしい。
「調子はどう?」
『いいよ。すごくいい。もう退院できるんじゃないかな。真夜中にごめんね。』
桜くんと電話する時も実弥が部屋でゴソゴソと動いている音がした。…また傷をかいているんだろうか。全く、困ったものだ。おはぎはかまえと言わんばかりににゃんにゃん鳴いてるし。
「自分のスマホから電話かけられるくらいだもんね。…でも、病院の人の言うことは聞くんだよ?」
『うん』
桜くんは素直に返事をした。
『霧雨さんは元気?』
「元気だよ。それで、電話なんかかけてきてどうしたの?」
『ううん。声が聞きたかったの。』
まるで幼児のようだった。彼はか細い声でそう言った。その声を聞くとたまらなくなってしまった。
「そっか。会いに行けたらいいんだけど…。」
『しょうがないよね。一応、まだまだ怪我人だから。』
「くれぐれも安静にね。」
『うん、うん…』
桜くんは元気になったと連絡をもらっているが、妹のハルナちゃんはなかなか回復しないらしい。
『霧雨さん、あのね』
「何?」
『…またご飯食べに行きたいなあ。』
「そうだね。何が食べたい?」
『……昔みたいに、定食屋さんでお腹いっぱい食べたい。おしゃべりして…。』
そう言う桜くんがあまりに健気で、胸が締め付けられそうだった。
「…そっかあ。じゃあ退院したらみんなで行こう。お祝いでさ。」
『…アリガト。うん。じゃあそろそろ切るね。おやすみなさい。』
「おやすみ。」
桜くんとの電話はそうそう長くもなくすぐに会話は終わった。
こんなタイミングで電話がかかってきたことを不思議に思ったが、たまたまだろうとあまり気にすることはなかった。