第46章 お薬どうぞ
腕と顔だけしかぬってあげられなかったが、実弥はご機嫌なようだった。
「明日も頼む」
なんて言われてもいつもの調子で『自分でやってよ』と言い返せなかった。まあ、私がぬってあげるって言っちゃったしなあ。
実弥は相変わらず無意識で私にピッタリとくっついてきてるけど…。これ、指摘したら照れて離れちゃうかなあ。
(黙っとこ)
私は狭さを感じながらも、そのまま二人並んでテレビを見続けた。
テレビを見ている間も隣でぽりぽりと傷をひっかくので、その度に薬をぬり直した。
「かいたらダメじゃない、お薬取れちゃう。」
「めんどい。ぬって。」
「も〜〜!!!」
こうなったらわざとやってるのか本当にかゆいのかわからなくなってきたぞ。…まあ、わざとかゆいふりする理由もわからないし、本気なんだろうけど。
「かゆいかゆい」
「あ、それは嘘でしょ」
わざとらしく棒読みだし、私の気配察知も嘘だと判断してる。
「嘘じゃねえし」
今度は背中までかきだした。…これは本気みたいだな。
「夏の間ずっとぬってなかったんでしょ。かぶれてるんだよ。」
「だってめんどいし…。」
「あーわかったわかった。背中もぬってあげる!!」
実弥はゴソゴソとTシャツを脱いだ。大きな背中にもびっしりと傷があって、やはりかきむしっていたのかところどころ赤くなっていた。
薬をペタペタとぬりたくっては揉み込んでやる。
「かゆっ」
「だあああああ!そこさっきぬり直したばかりでしょうがあ!!」
実弥はその間にもいろんなところをかきむしるので、薬はごっそり減ってしまった。
「そういえば、キッチンの戸棚に新しいの大量にあったような…」
「………」
「まさか病院行くだけ行って今までぬってなかった!?」
「……めんどいからァ」
「もうそれいいってば!!」
なんてことだ!!病院に行ってる意味ないじゃん!!
こうなったら、明日からひたすら薬ぬりまくってやる!!!
「お前なんでそんな必死になってぬるんだよ」
「どうしてもぬりむらとぬり残しが許せないの」
「職業病かよ」
実弥は苦笑した。いやいや笑い事じゃないから。
……この子も私に負けずとズボラなところがあるんだよなあ。