第46章 お薬どうぞ
巌勝と実弥は今生では初対面。
ギスギスするのもしょうがないだろう。私だって最初はそうだった。
「ところで…実弥はどうしてあそこにいたの?」
「あ?加賀美さんに忘れ物してるって連絡きたんだよ。財布が店に落ちてたって。」
「へ?」
実弥はいつも使っている財布を見せてきた。
「店出る前に確認したんだけどなァ」
不思議そうに首を傾げた。私はハッとした。
…まさか、アリスちゃんがやったのかな。実弥をここまで連れてくるために…?
「……それで、この車どこに向かってんだよ」
「教えん」
「あ?」
「もっと気を引き締めろ。事態を分かっているのか。どこで誰が盗み聞いているのかわからんぞ。」
そう言われて私は開きかけていた口を閉じた。
「にいた部屋にもいくつか盗聴器が仕掛けてあった。」
「え」
「お前がのろのろと荷造りをしている間に見つけた。先ほど確認したが、この車にはGPSまであった。機械の類はあらかた抜いたがな。」
私はポカンとしてしまった。
え?うそ?
「わ、私の鼻歌も独り言も全部聞かれてたってこと!!??」
「…心底どうでもいいだろう。」
「よくない!!盗聴された私の気持ちがお前にわかるか!!!」
「騒ぐな。無惨様の事務所にも仕掛けられていたんだ。気持ちはわかる。」
…ああ、そうですか。
え、ていうか。
「じゃああのままあの部屋にいたらやばかったじゃん!?」
「だからこうして連れ出している。」
「ありがとう」
「今更か」
巌勝はため息まじりに言った。
「ん?そもそもどうして巌勝がここまでしてくれるの?」
「おい、お前のパートナーだろう。黙らせろ。」
「無理だ。こうなったら騒ぎ続ける。」
私たちを乗せた車はどんどん進み、なんだか見覚えのあるところまできたなあ……?
「…ねえ、気持ち悪いんだけど」
「我慢しろ。窓は開けるな。」
「いや、もう2時間は乗ってるよね…うぷっ」
「なんだ、酔ったのか」
「おい、一旦止めろ」
私の妊娠のことを何も知らない巌勝はそのまま進もうとしたが、実弥が口を出してくれた。これで止まってくれるかと思いきや、私たちを無視して巌勝は車を走らせ続けた。