第46章 お薬どうぞ
お店から出たはいいものの、スーツケースを転がしつつ…これからどこに行くのかと考えていた。
巌勝はちんたら歩く私に嫌気がさしたのか、スーツケースを奪って私の代わりに引きずっていった。
彼は近くの駐車場に停めていた黒塗りのいかにもな車にスーツケースを詰め込み、私にも乗るように言った。
「…どこまで行くの?」
「いいから乗れ。」
「い、いやだよ、教えてくれないと…」
「……はあ」
巌勝はため息をついたかと思えば、何も言わずに私を後部座席に押し込んだ。
「うわーー!やめてやめて!!むりむり怖すぎ!!」
「うるさい、騒ぐな縛るぞ」
「待ってそれ誘拐犯のセリフ」
え、待って騙された!?私の気配察知では悪い予感はしないけれど…。
「!?」
少し遠くで声がした。
ハッとしてそちらに視線を向けると実弥がいた。
なんでここにいるのか、とか思った瞬間に車のドアが閉まった。
「えええええええ!!待って待って!!巌勝!?巌勝さーーーーーん!!!!!」
運転席に乗りこんできた彼に抗議するも、無慈悲にもエンジンをかけた。
「実弥」
慌ててドアを開けようとしたが、そんなことをする前に巌勝が運転席から助手席のドアを開けた。
「乗れ」
一言そう言った。実弥は怒るかと思ったが、素直に従った。
車内はお通夜かというくらいに空気が重かった。
「…風柱よ、気配がうるさい。もう少しイライラを抑えろ。」
「うっせえ。にお前のこと信じるって言った手前、こうするしかねえんだから腹も立つだろうがよォ。」
……ああ、そっか。私と話したこと律儀に守ってくれてるんだ。
…て、そんなこと言ってる場合ではなくて。
実弥からしたら憎くてたまらないだろう。前世では弟の玄弥くんを殺した相手だ。
「それにしても、これはなんの因果だろうな。私が殺したお前たちが来世で婚姻関係にあるなど。」
「みちかつ、もうしゃべらないで。場の空気を和ませようとしてるとかだったら逆効果だから。」
「……すまない」
車内の重々しい空気に磨きがかかってしまった。