第46章 お薬どうぞ
大泣きした後でアレだが、これはまずいのではないだろうか。
…私が実弥を突っぱねた理由が理由だからなあああーー……
男の胸に抱きついて大泣きって、うんまずいよね。
「悪いことをした気分だわ」
「……」
巌勝は顔をしかめていた。しわくちゃになってしまったスーツの上着をたたみ、彼は立ち上がった。
「では行くか、」
「え、どこに」
「弁当屋だ。お前は荷物をまとめてさっさと出てこい。」
「えええええええええええええええええ」
大泣きしてガラガラの声で悲鳴をあげるも彼は歩みを止めることはなかった。
「ちょっ、ちょっと、説明を…」
「童磨の手のかかった女の元にお前を置いていけるわけがない。安全な場所でお前をかくまう。」
「はあ!?なんでそんなことに!?」
「お前が泣き喚いている間に手続きは済んだ。」
「おまっ!!だから私に泣け泣けって言ったの!?」
あっという間に連れていかれ、お店に到着した。この時間、アリスちゃんはお店にいない。お店を閉めて自分の家に帰っているはずだ。
私は右往左往しながらもスーツケースに荷物をまとめた。ただ、イーゼルに乗せられたキャンパスだけは持ち出すことができなかった。
「その絵は置いていけ。」
「………うん」
私は最後に店内を振り返った。アリスちゃんが気に入ったと言って飾ってくれた海の絵が目に入った。
「…巌勝、私アリスちゃんに会いに行きたい。お礼が言いたいのよ。」
「お前を騙した奴に礼もないだろう。店を壊しても事足りん。」
「わあ暴力的」
今にも暴れ出すのではないかとヒヤヒヤしたが、巌勝はそこまで子供ではなかった。
「でも、アリスちゃんって本当にいい子なんだよ。大好きな友達。」
「お人好しめ。」
「なんとでも言って。」
私はふう、と息を吐き出した。
アリスちゃんが私の絵をSNSに載せてくれたことで、優鈴と実弥がここまで来てくれた。アリスちゃんが実弥を怒鳴り散らして、私一人でお腹の子を抱え込むことは無くなった。
アリスちゃんが美術館のことを教えてくれた。だから、童磨くんは捕まった。
いい子だ。本当にいい子。
悪人にも、善人にもなれないような、私の素敵な友達。