第45章 傷が消えるまで生き抜いてー過去の記憶ー
私は手を伸ばした。
けれど、安城殿はさっとおまんじゅうを高く手を上にあげた。また私はポカポカと彼を叩いた。
「どうして私を叩くの?」
「んーんーんー」
「うなってもダメよ」
彼は真剣な顔で言った。
「思い通りにならない時、暴力で訴えるのは最低な行動よ。」
「オマンジュウ!!」
「単語で喋らないの。良いこと?文章にして伝えなさい。」
最後に一発、思い切り彼を叩いた。けれど彼の硬い筋肉質な体はびくともしなかった。
「あなたはそうやって殴られてきたのよね。たくさんたくさん殴られてきた。あなたの父親や母親は思い通りにならないことがあるとあなたを殴った。だから、殴らないと思い通りにならないって思ってるのよね。」
安城殿は私の体をぎゅっと抱きしめた。
初めてのことにギョッとして、私は動くのをピタリとやめてしまった。
「ああしなさい、こうしなさいって言われたこと以外はできないのよね。そうとしか言われてこなかったから。私もね、姉さんと父さんにそう言われてきたからわかるわ。」
安城殿は私から体を離して、にこりと微笑んだ。
「欲しいものがあるときは、『ください』って言うのよ。」
「……く…だい」
私はモゴモゴと新しい言葉を口にした。
「安城殿、オマンジュウ、くだちい」
「惜しい〜!!!!!くださいよ。く、だ、さ、い。でもあげるわ。はい、どーぞ。」
安城殿は私におまんじゅうをくれた。それを口に含むと、やはりあんこの甘い味がして美味しかった。
「そうそう。じゃ、行きましょっか。」
「はい、行くのです。」
私は安城殿と手を繋いで屋敷へ向かった。