第45章 傷が消えるまで生き抜いてー過去の記憶ー
私は“ホシイ”がよくわからなかったが、興味のあるものを指さした。
もくもくと煙が出ているカゴが置かれたお店を指さした。
「ああ、おまんじゅうね。」
「おまじゅ?」
「あら知らないの?お、ま、ん、じゅ、う。」
「まじゅー…」
聞いたことのないものの名前に首を傾げた。
安城殿はお店の店主に注文し、おまんじゅうを二つ購入した。すると、店主は古紙に包まれたおまんじゅうとやらを寄越してくれた。
「はい、霧雨ちゃんの。火傷しないようにね。」
安城殿は私にそれを一つ手渡した。紙の上からでもわかるほど熱くて、両手いっぱいの大きさだった。
ツンツンつつくと真っ白でふわふわしていて、優しい匂いがした。
「なんだ、お嬢ちゃん。毒なんて入ってないぞ」
店主が顔をしかめた。
「初めて見たのです」
「ん?」
「おまじゅ、初めて見たのです」
「何言ってんだこの子」
「あはは、言葉遅れなんですぅ〜」
安城殿はニコニコと笑って私を引っ張った。
そして市場から出て、また屋敷に向かう道に戻った。
そこまできてようやく私は手に持ったおまんじゅうにかじりついた。
ふわふわの生地に、中にはぎっしり餡子が詰まっていた。
「………」
私はなんとも言えない感情になった。どうしてだろう。
安城殿はぽんぽん、と私の頭を撫でた。その顔を見上げると、優しく微笑んでいた。
「美味しい?」
「……」
「よかったわ」
どうしてそんなことを聞いてきたのだろう。私は黙々とおまんじゅうを食べた。
あっという間に食べ終えてしまい、だいぶ進んだのにも関わらず私は安城殿の手を引っ張って市場に戻ろうとした。
「おまじゅ、おまじゅ」
「お、ま、ん、じゅ、う!ちゃんと発音しなさい。」
「オマンジュウ、オマンジュウ!!!」
地面をダンダンと足で踏みつけ、安城殿をぽかぽかと叩いた。
「あー!!!自分の意見を持つようになったのは良いことだけど、癇癪を起こすのはやめて!!人を殴っちゃいけません!!」
「んーーーーー!!!!!!」
安城殿はガサガサと袋からおまんじゅうを出した。…そういえば、二つ買ってたっけ。