第45章 傷が消えるまで生き抜いてー過去の記憶ー
私用の屋敷に向かう途中、安城殿は市場に寄った。
「ね、柱就任祝いに何か買ってあげるわ。何がいい?」
彼が私物を買うのかと思ったが、くるりと振り返ってそんなことを言った。
「何が良いのでしょうか。」
「ええ〜私が聞いてるのよ?欲しいものは?」
「ホシイモノ?」
私は首を傾げた。本当に意味がわからなかった。
「ん〜難しい?それじゃあ、やっぱり羊羹かしら?」
「羊羹」
「あら、違う?じゃあ……。」
安城殿はキョロキョロとあたりを見渡した。
「ううん、霧雨ちゃんみたいな年頃の子が欲しがるものって…」
どうやら困らせたらしい……。
私もあたりをキョロキョロと見渡したが、私にはやはりわからなかった。ただいろんなものが置いてあるな、としか。
「何かないかしらね〜」
安城殿は歩き出した。人が多いからか、自分のペースで淡々と歩いていた。私は必死にその背中を追いかけた。
「あんじょ…」
その時、ついてくるようにと言われていないのについていっていることに気がついた。
思わず立ち止まってしまった。安城殿はグングン先に進んだ。
だめなの。
いやなの。
『しなさい』って言われないと何をしたら良いのかわかんなくて。けど、私は安城殿から離れたくないの。
「あ、んじょ、どの」
手を伸ばす。
背中が遠ざかる。
離れたくないってなんでそんなこと思うんだろう。もうどうでもよかったのに。何もかもどうでもよかったのに。
“ホシイ”は怖い。
どうでも良くなくなっちゃったんだもん。
「安城殿!!」
大きな声で名前を呼ぶと、彼が振り返った。安城殿は慌てて私の元に戻ってきた。
「あらあ、ごめんね。夢中になって先に行っちゃった。何か欲しいものあった?」
そんな言葉など無視して、ぎゅっと彼にしがみついた。
…置いていかれそうで怖かったなど、私は言葉にできなかった。