第45章 傷が消えるまで生き抜いてー過去の記憶ー
安城殿の声は冷ややかに感じた。
「そうよ。」
私はその横顔を見上げた。
彼は私を見下ろした。
「だから、生きよう。ね?」
気の抜けたような笑顔で彼は言った。
場の緊張感が一気に消えていったような気がした。
「私はあなたに生きていて欲しいの。感情なんて私だって知らなかったしわからなかった。けど、今は幸せって思える。」
「……。」
「嫌なことばかりじゃないわ。素敵なことがこの世にはあるの。だから、鬼殺隊になってでも私は生きようって決意したの。」
安城殿は…。
いつもと違う笑顔を見せる安城殿は、とても綺麗だった。
「生きるとは、どう言ったものなのですか」
「さあ?」
「私は、消えてしまいたいのです」
安城殿は笑っていた。
「消えないわ」
「どうして」
「あなたは人間だもの」
そよそよと風が吹いた。
安城殿の綺麗な髪が風に舞った。
「あなたは、もう誰の命も消さない生き方をするんだもの」
安城殿の声は、芯があって。
「若い芽は、育み、慈しみ、育て、そして」
あるのかどうかもよくわからなかった、私の心の中に響いた。
「愛するものよ」
安城殿の瞳が私を見つめる。
「『アイスル』…?」
「ええ。」
風がやみ、安城殿の髪は揺れなくなった。
「あなたも誰かに愛をあげる人間になってね」
この日のことは、とても印象に残っている。
けれど、時が経てばこの美しい時間のことも忘れてしまう。
私はまだこの時人間ではなかったのだ。
安城殿が買ってくれた羊羹の味も、この人の声も、顔も、夕日の色も、言葉も、薄れていく。
それでも感情だけは生きている。
教えてくれたことは、全て________