第45章 傷が消えるまで生き抜いてー過去の記憶ー
いつしかと同じように、安城殿と手を繋いで歩いた。
「私ね、生まれや育ちで差別されるの大嫌いなの。」
その時に初めて聞く話を聞かせてくれた。
「私だってろくな場所で育ってこなかった。だから、わからないことだらけだった。」
「……」
「散々バカにされたわ。だから、あなたを見ていると私に見えたの。」
安城殿は私と歩幅を歩いてくれる。影が夕日に伸びて、ずいぶん長く見えた。
「私は安城殿ではないのです」
「……そうね」
「安城殿の気持ちは、難しいのです」
いろんな感情がこの人にはある。複雑で…どんな言葉も当てはまるのかもわからなくて……。
「お母様、と、お父様、もそうでした。」
「…!家でのこと覚えてるの!?今まで話さなかったから忘れてしまったのかと…。」
「忘れ、ないのです。」
私は安城殿を見上げた。
「忘れられないのです。いつでも私の、目の前にいるのです。」
「目の前…?」
「いつでも私の行く道にいるのです。」
前方に伸びた私の影を、お父様とお母様は踏んづけていた。いつも目の前に立って、いつも私を見下ろしている。
「私は、なぜ二人が私を殴るのかわからなかったのです。」
「…」
「今もまだ怒っていらっしゃるのです。自分を殺した私を、お許しにはならないのです。」
「…霧雨ちゃん」
安城殿の手をぎゅっと握りしめた。
「私が殺した命は、戻ってこないのですね」
鬼を斬ると同時に、たくさんの人の心に触れた。
鬼に大切な人を殺された人は、悲しみ、苦しみ、怒り…。私には難しい感情をむき出しにしていた。
「消えない傷の真意が理解できました」
道端の雑草を踏んだ。
「私が死んで冷たくなるまで、私の消した命は私にまとわりつくのですね」
安城殿はしばらく黙っていた。
けれど、すばらくしてから静かに話し始めた。