第45章 傷が消えるまで生き抜いてー過去の記憶ー
「ともかく、新しい刀と隊服は私が手配した。後日送り届けるよ。一介から話は聞いていたし、新しい烏もそのうち子のこの元に来るだろう。」
「ええ。それまでは、また私が面倒を見ていますわ。」
消えてしまえたら。
消えてしまえたら、楽なのにな。
だってもうどこにも行けやしない。
「その必要はないよ。」
お館様が不意に言った。
私はその発言に反応して、顔だけをそちらに向けた。
「の昇進が決まった。…鬼殺隊としても、嬉しい話だ。」
「まさか。」
「ああ、一介から報告があった。下弦の鬼を斬ったとね。」
お館様も私に視線を向けた。
「。君は霞柱として鬼殺隊を支えるんだよ。」
「カスミ、バシラ?」
「そう。」
お館様は立ち上がり、私の元まできてしゃがみ込んだ。そしてそっと傷だらけの私の手を握った。
「君の居場所はここにあるよ。」
「………」
「大丈夫。どこにだって行けるよ。君には野を走ることができる足がある。」
私は起き上がった。
暖かい手だと思った。
「羊羹……」
ボソッと呟くと、安城殿が呆れたようにため息をついた。
「じゃあ、帰り道に買いましょうか?お祝いに奢ってあげる。」
「君の屋敷は用意してあるからね。新しい烏の子に案内してもらってね。」
二人はそう言った。
「ご…」
私は、なんだか言いにくいその言葉を口にした。
「ごめしゃい」
モゴモゴと言うと、安城殿がいつもの調子で言った。
「ごめしゃい、じゃなくて、正しくは『ごめんなさい』!」
「ごめんさい」
「………お館様、至急練習させますわ。」
「いいよ、天晴。」
お館様はにこりと笑った。
「大切なものは気持ちだ。その気持ちがあるということは、は人間ということだよ。」
「…ニンゲン」
安城殿はその後ろで苦笑していた。
「そうですわね。だいぶ“らしく”なりました。」
「ラシク」
「そうよ。」
「ラシク、嬉しい、です?」
安城殿はついに吹き出した。
「ええ、とっても嬉しいわ!」
わしゃわしゃと私の髪がくちゃくちゃになるまで頭を撫でてくれた。
その感情に触れて、まだ自分には難しくてわからないけれど、お館様の手のように暖かいと思った。