第45章 傷が消えるまで生き抜いてー過去の記憶ー
私は部屋の隅で二人に背を向けて寝転んだ。暴れ回ってすっかり疲れてしまった。安城殿は何をしても傷一つつけることは叶わなかった。
「こんなの初めてだわ」
安城殿が私をよそにお館様と話していた。
「『しなさい』って言われていただけだったのに、それに反発するようになったんだね。」
「…どれだけ羊羹が気に入ったんでしょう。申し訳ありません。」
「いいよ。彼女もまだまだわからないことだらけだろう。」
私はだらんと手足をだらけさせていた。さっきは怒ったのに、今は怒らなかった。……安城殿は叩いてくることはあっても、痛くない。
殴られて体が変な色になって、髪の毛抜かれて…家とは大違いだなあ。
「天晴と会って気が緩んだんだろう。すっかり信頼されているんだね。」
「……そうでしょうか。」
二人の会話はその後も続いた。
「隠の子は、隊服をよこすつもりはないと…そして、刀鍛冶の里にも連絡を取ったが、答えは同じだった。」
「………。そうですか。手配しようとしていた里親や身寄りになってくれそうな寺も…この子の生い立ちを理由に未だに見つかりそうになく、鬼殺隊だけが頼りだったのですが…。」
私はパチパチと瞬きを繰り返した。
何を言っているのか理解できないが、なんだかダメだなって思った。そんな雰囲気だった。
そう言う時は、時間が過ぎるのを待てばいい。
お父様から殴られた時も、お母様が気が狂ったように叫び続けていた時も、そうしていた。
「あなたの言葉でも届きませんでしたか。」
「…すまない。事実無根の噂が出回っているようだ。それらを一つ一つ説明してみたのだが、正直解決には至っていない。天晴も直々に手を回してくれていたのに、本当にすまないね。」
「いいえ…。」
私は目を閉じた。耳も閉じれたら良いのに、と思った。
ていうか、このまま消えてしまえたら良いのに。