第45章 傷が消えるまで生き抜いてー過去の記憶ー
出された羊羹とお茶をつまみながら二人の話を聞いていた。
「どうしてこの子に給料も隊服も刀も与えないのですか」
「私の指示が下の子たちに伝わっていなかったようだ。」
久しぶりの甘いものに教わった礼儀作法も忘れ、畳に足をべったり伸ばした手掴みでバクバク食べていた。
自分の前のお皿は空っぽになってしまったので、安城殿の前の皿に乗せられていた羊羹にまで手を伸ばした。
自分の手まで食べるように口に含み、ひたすら咀嚼した。
「おいしいかい?私のも食べていいよ。」
お館様が微笑んで皿をよこしてくれるので、それにも手を伸ばした。しかし、その手を安城殿が叩き落とした。
「コラ、ちゃんと道具を使いなさい。足もだらしなく伸ばさないで、正座しなさい。それからこう言う時は『ありがとうございます』って言いなさい。」
そう言われた時、なんだかモヤッとした。今まで、『しなさい』と言われればそれでよかったのに。
なんで邪魔するんだ。私の羊羹。
「んーーーーーー…!!」
「…ちょっと」
「んんんんんんん」
低い声で唸った。安城殿は困っていたようだった。
「え、ねえ、唸るのやめてよ…。」
「ん!」
「ちょっと!」
私の手を払った安城殿の手をバン!!と叩いた。ポカポカと安城殿の体を叩く。
「羊羹、羊羹!!」
「霧雨ちゃん!!!!!」
いっそう大きな声で怒鳴られて、私は安城殿から体を離した。
「礼儀作法も守れない子にあげるものはありません!!あなた、私の羊羹も勝手に食べたわね!!恥を知りなさい!!!」
怒られた。
怒られた。
畳に這いつくばって、咄嗟に身構えた。怒られたら殴られる。叩かれる。そう思ったから。
安城殿は私を見て眉を下げた。
「やめさない。そんな、言葉のわからない動物みたいじゃない。」
「………」
「ほら、おいで。汚れた手であちこち触らないの。」
私は暴れるに暴れた。
安城殿は暴れる私に殴られても、叩かれても、噛みつかれても、動じることなく汚れた手を拭いてくれた。
その手つきは優しかった。
お館様はそんな私たちを黙って見守っていた。