第45章 傷が消えるまで生き抜いてー過去の記憶ー
ある日、ついに刀が折れた。
教えられた通りに手入れをしていたのだけれど、鬼との戦闘の末に折れてしまった。
「ありがとうございます、ありがとうございます」
鬼を倒した時、そばにいた女の人が涙を流しながらそう言っていた。その後ろで私と同じくらいの身長の男の子がじいっと私を見ていた。人気のない山道で鬼を追いかけている時に遭遇したのだった。
誰に言っているんだろうとその様子に首を傾げつつ、私は折れた刀を見下ろしつつ、烏に状況報告を任せてその場を去ろうとした。
「あのぅ」
「…」
「お礼を」
そこで服を掴まれた。私はくるりと振り向いた。
「あ、お怪我を」
その人は私の頬を布で撫でた。真っ白な布にはべっとりと赤い血がついていた。たら、と血が垂れてきたのでゴシゴシと血を拭った。頬を切ったらしかった。
「…痛くないのですか?」
痛い?ああ、またこの言葉か。
「問題ありません」
「しゃべった!!」
「喋ります」
ずっと黙っていた男の子が大きな声を上げた。
「あ、ありがとう、俺たちを助けてくれて!」
顔を真っ赤にしてそう言った。……ありがとう?
「私に言っているのですか」
「?そうだよ、当たり前じゃん」
「…違います」
「え?」
「私の知っている使い方と違います」
男の子と女の人はキョトンとしていた。
「『アリガトウ』、は、鬼を倒した私に言う言葉なのですか」
「だ、だって俺たちを助けてくれたもん」
「私は鬼を斬っただけなのです」
「そのおかげで俺たちは命が助かったんだ」
私は首を傾げた。そんな私を見た二人は怪訝そうに眉をひそめた。
「わかりません」
安城殿ならわかるのだろうか。煉獄殿なら。もしかしたら、わかるのかもしれない。
「その『アリガトウ』はわかりません。」
二人が黙ったので、ようやく次の任務に行けると思ってその場から離れようとした。
「す、すみません」
しかし、女の人が私を止めた。
「申し訳ないのですが…道がわからなくて、もし道をご存知でしたら、その…麓まで、連れていっていただけると…」
私は返答に困ったが、それを聞いていた烏が自分なら案内できると言った。私は烏に任せておこうかと思ったが、私にもついてきて欲しいと言われたので同行することにした。