第44章 傷が消えるまで永遠にー過去の記憶ー
その日はのんびりしていていいと言われたので、縁側に座ってぼうっといしていた。
足がかゆくて包帯の上からもぞもぞとかきむしっていると、安城殿が私の手を止めた。
「こら、包帯剥がれちゃうでしょ。……治療したとはいえ、だいぶ時間が経っていたものねえ。もう一回お薬塗りましょ。かゆいのなくなるわよ。」
安城殿は優しい手つきで薬を塗り、新しく包帯を巻き直してくれた。
「…これで良いかしら。痛くない?」
「……」
「あら…痛かった?」
黙っている私に彼は不安そうに聞いた。
「わから、ないです」
「え?」
「…わからない、のです」
私はじいっとその目を見つめた。
「イタイ、は、イタイ、がなにか、わたし、わからない、の…です」
「………」
安城殿はなにも言わなかった。
「霧雨ちゃんは何にもわからないのねえ…」
「……?」
「けど、いつか理解するのよ」
彼は私の隣に腰を下ろした。隣の彼を見上げると、本当に綺麗な顔をしているなと思った。
「いつか…自分のしてきたことがわかるようになる。その時、あなたは自分の傷に気づくのよ。」
「きず…」
私は手足の包帯を見下ろした。
「いいえ。目に見えない傷よ。永遠に消えない傷。その傷がどうしようもないほど深くて、消えなくて、それが苦しいってことをいつか知るんだわ。」
「……みえない?」
「傷が消えるその日まで、あなたは永遠に苦しむの。」
…永遠に消えない傷が消える日?
「痛いって、言っても消えないの。痛みをわかって、あなたは人間になれる。」
「……」
それは、まるで、私を人間ではないと言っているようだった。