第44章 傷が消えるまで永遠にー過去の記憶ー
月日は流れ、私は安城殿のもとで一ヶ月ほどお世話になった。
呼吸を覚え、常中を会得した後に最終選抜へ。この段階で常中を使える人はほとんどいないらしく、出会う人には驚かれた。
山では一人の男の子に会った。彼は頬を真っ赤にして私に手を振り、藤襲山から去っていった。
私は無傷で山から降りた。
そして、初めての任務に呼ばれた日に安城殿の元を去った。
「…今日で霧雨ちゃんも自立かあ。」
彼は出て行く時に見送ってくれた。
「私が手をかけて育てたのは確かだけど、呼吸も戦法も全てあなたの努力の賜物よ。…頑張ってね。」
「………」
最後の最後で、『しなさい』とは言われなかった。
「安城殿」
「なあに」
「こういう時、ありがとうと言うのだと、煉獄殿に教えていただいたのです。だから、ありがとう、なのです。」
「……正しくは、『ありがとうございます』!」
「アリガトウゴザイマス」
「そう、上手」
安城殿は大きな手で頬をそっと撫でてくれた。
「…じゃあね。きっとすぐにまた会えると思うけど」
「?」
「今の鬼殺隊に霞柱はいないからね。」
彼は意味ありげな言葉とともに片目を閉じた。
私は頭を下げて屋敷から立ち去った。
歩いているうちに、私のそばにはカラスが姿を見せていた。…名前はないらしいから、そのうち付けてあげないといけないらしい。
「鎹鴉」
私は真っ黒な瞳をじっと見つめた。
まだ警戒されてくるのか、一定の距離を空けられていた。