第44章 傷が消えるまで永遠にー過去の記憶ー
二人で森の中に入ると、嫌な気配がした。
ピリッとしたものを感じて、私はそちらに顔を向けた。
「あん」
「ん?もしかして私を呼んだの?」
「あん、あそこ、のです」
「…あんって名前の原型なくない?てかなに?」
自分で話す時は決まって言葉がめちゃくちゃだった。いつもは安城殿の言っていることを復唱しているだけだから、自分で喋るのは苦手だった。
「わたし、あそこ、あそ・こ、のです」
「あそこって何?」
「あ、そ」
私は指をさした。
「………」
安城殿はじいっとそちらに目を凝らした。
「…なるほど?」
彼はごきっと首を鳴らし、刀を抜いた。
「霧雨ちゃん、自分の身を守ることはできるって知ってるからちゃんとやるのよ。」
「はい、わたしやるのです」
「そう。そして、よく見てなさい。」
「はい、わたし、見るのだ、です」
いつしかと同じようにビリッとしたものを感じた。その瞬間、距離を離すために後ろへ飛ぼうとした。
しかし、それよりも安城殿が消えた方が早かった。いや、消えていない。気配の筋を辿ると、彼は走ったのだ。
速い。
そう思うと同時に、彼は不思議なことをしていた。
「雷の呼吸、壱ノ型」
その姿をしかと目に焼き付けた。
「霹靂一閃」
対峙していたのは、私も一度は邂逅した鬼だった。彼はあっさりと鬼の頚を斬り落とし、華麗に着地した。
「はあ〜、雑魚のためにわざわざここまでくるとか。」
安城殿はため息をついていた。
「霧雨ちゃん、これが鬼殺隊のお仕事よ。ちゃんと見てた?」
「はい、わたし、み・って、たのです」
「いつかはあなたが鬼を斬って人を守るのよ?いい?」
「はい、わたし、いい、のです」
刀をぎゅっと持って彼の話を聞いていた。
「あなたはいつか鬼殺隊に入るの?いい?」
「はい、いいのです」
「そのためには呼吸を覚えてー…」
安城殿の説明を聞いている最中、私はまたあの気配を察知した。
「わたし、あっち、のです」
「え?」
「わたしあっちのです、わたしあっちのです」
「ちょ、私の教えた言葉を繋げりゃいいってもんじゃないのよ!?」
ぐいぐいと服を引っ張ってその方向に彼を連れて行こうとした。気配がすぐそこまできた時、安城殿はバッとその方向へ顔を向けた。