第5章 好いて好かれて
「ああやだやだ。一発殴ればいいのに。お前シンダガワに甘いんだよ。」
いやお前帰らんのかい。
「いいよお。あれ以上傷増えたらかわいそうじゃない?」
「増やしてやろうぜ。おでこにもう一個。」
「やめなってば。」
優鈴は面白い冗談を言う。
本気じゃないと信じよう。信じろ私。気配で嘘じゃないってわかっても信じろ。
「ねえ、それよりあなたはどうなの?」
「は?」
「ハルナちゃん!」
その名前を出すと、優鈴は顔を曇らせた。
「それが困ったことになったんだ。」
「何よ?」
「お出かけしようって向こうから誘われたんだ。メールで。」
優鈴は白目になりそうな勢いでこめかみをピクピクと痙攣させた。
「きゃあ!!デートじゃない!!」
「…やっぱそうか。」
「で?なんて答えたの?」
「いや、別に何も。まだ連絡返してない。なんか仕事先でチケットもらったらしくて遊園地に行きませんかって誘われたんだけど。…行くって言ったら、そういうことになるだろ。」
優鈴はこめかみを抑えてため息をついた。
「行けばいいじゃない。きっと楽しいよ?」
「嫌だよ。そんないい加減なこと。僕遊園地嫌いなんだ。人が多くて疲れる。…それに最近書がスランプ気味で…そう遠くないうちに書道パフォーマンスの本番あるのに……何も書けなくて…。」
優鈴はそこでハッとしたように顔をあげた。
「そうか。そう言えば諦めるか。」
「いやいやいや。」
私は首を横に振った。
「バカ。折角勇気出して誘ってくれたんじゃない。」
「勇気の使い方間違ってるよ。」
「間違ってないよ。」
優鈴は顔を歪めて頭を抱えた。
「なんでそんなに嫌がるの?好きな人とかいるの?」
私が聞くと、数十秒ほど黙り込み、ようやく重い口を開いた。
「いる」
とても冷たい声だった。投げやりで、仏頂面で、無感情。
けどどの様子を見れば、その恋は散ってしまったのだとわかった。聞かなくても、それだけその子のことが好きなのか伝わってきた。
「……告白は?」
「してない」
そっか。じゃあ辛いんだね。もうわかってるんだね、自分の恋は叶わないって。
それでも好きなんだ。きっと素敵な人なんだろうな。