第5章 好いて好かれて
優鈴は優しいから言いたくないし言われたくない。
ハルナちゃんに『好きじゃない』って言いたくないし『好き』って言われたくない。
だから悩むんだな。諦めてほしいんだ。言葉もなく。
「けど、少し…残酷かもしれないね。」
「………どうして。」
「言葉もないまま恋が終わるなんて悲しいよ。」
優鈴はハッとしたように顔をあげた。
わかるはず。わかるはずだ。だって優鈴は言葉もなく恋が終わったんだから。
「……………そうだね」
優しいあなたなら。
「……行って、みようかな。遊園地。」
わかるはず。
「あなた絶叫乗れるの?」
「大丈夫だけど、好きじゃない。」
優鈴はまたため息をついた。
「まあ…きっと何にもないよね」
祈るように言うので、私は苦笑した。それは何とも言えない。
「ねえ、その書道パフォーマンスの本番って日程決まってるの?」
「決まってるよ。音楽に合わせて大きな筆で巨大な紙に文字書くやつ。」
「じゃあ教えて。行くから。」
「…来れるの?」
どこか控えめな質問に、私は頷いた。
「行けなくても行く!」
「………あっそう。」
優鈴は素っ気なく答えて、パンフレットとチケットを三枚くれた。
「へえ!キメ学の文化祭のステージなんだ!」
「学園の書道部の子達に臨時講師として教えてるからその縁で……まあ、おじいさんたち誘っておいでよ。」
「ありがとう!」
私は指が動かないので優鈴はそれを引き出しにしまってくれた。
「じゃあ、もう行くから。」
「うん。今日はありがとう!」
「いや……近くに寄っただけだから…。」
そう言うが、それは嘘だとわかった。
きっとハルナちゃんの件で来たんだろうな。
「バイバイ、またね」
優鈴はそう言って帰っていった。
一人の病室はしんとしていて、私は少し寂しくなった。