第5章 好いて好かれて
優鈴が言い終わると、私と実弥はもうパニックも同然にうろたえていた。
「まあ、でもさ。今はシンダガワくんが好きなんでしょ。」
「うん。」
何の躊躇いもなく答えると、実弥から照れた気配がした。
「悲鳴嶼さんが好きだったのは、過去の私だから。」
それに彼に対する気持ちは前世の私が持っていってしまった。
だから、もうここにはない。
「今でも思い出すよ。でも、思い出の中にいるのは…。私だけど私じゃない。そうですよね。」
先輩に言葉を投げかけると、彼は微笑んだ。
「そうだ。私が好きなのは、あの時のだ。」
私も微笑み返した。
「不死川は私に気を使ってくれたのだろう。すまない。だが、良いんだ。」
悲鳴嶼さんは微笑んだまま言った。
「もう終わった。終わったんだよ不死川。私達は死んだんだ。きっとあの世で結ばれた。だからもう好きではないんだ。」
それを聞いて、実弥は何か言いたそうにしたが、言わなかった。
「…泣かないでよ?」
「……泣かねえよ。ばか。」
とは言うがいやいや声ちっさ。
「はい。問題解決ね。」
そんな中優鈴がそう言った。
「贅沢言うなよシンダガワ。お前こんな美女に愛されてんだからな。殺すぞクソが。」
「すんません。…あと俺何度も言ってるけどシナズガワです。」
「悲鳴嶼くんも言い残したことないね?」
「はい。…話し合うことはなかったので、良い機会でした。」
「よし。」
優鈴は頷いた。
…なんだかんだ言いつついい人なんだよな。
私にも優しいし、笑うと可愛いし。でも書道とかになると真剣で。
「じゃあもういいね。解散。」
優鈴が言うと、二人は立ち上がった。
「そうだな。そろそろ俺帰りますんで。悲鳴嶼さんは?」
「私も帰ろう。帰りにお茶でもどうだ。」
「いいっすね。」
何だか雰囲気も良くなって、二人仲良く帰っていった。
私に最後手を振って実弥は出て行った。
ああいやはや。一時はどうなるかと思った。急にあんなことになるんだもんな。
いや、急じゃなかったか。ずっと気にしてたもんね。それなのに私はあんまり話さなかったから、我慢してたんだよね。今日は頑張ってくれたんだろうな。申し訳ない…。