第43章 傷が消えるまでずっとー過去の記憶ー
中に鈴の入った鞠を転がす。
それでも私は何が楽しいのかわからない。杏寿郎くんはきゃっきゃっと笑い声をあげているが。
「……………」
毱。
そういえば、どこかで。
どこかで見たことあるような。
「……ひ、とつと…や…」
「?」
「ひとつとや、ひとよあければ……」
どこかで聞いたことのある歌だった。
なんだったっけ。どこで聞いたんだっけ。
『』
「『にぎやかでにぎやかで…』」
記憶に染み付いたこの歌。
誰だっけ。私に歌ってくれてるこの女の人。
「ちっ父上ええー!母上ーー!!」
杏寿郎くんはぶつぶつと歌っている私をおいてどこかへ行ってしまった。私は鞠を持って立ち上がった。
ぽん、と鞠を空に投げる。
「おかざりたてたるまつかざりまつかざり」
落ちてきた鞠をまた手でついて空にあげる。
歌詞の意味なんてわからないが、言葉はすらすらと口から出てきた。
「ど、どうしたんだ杏寿郎!」
「お歌!お歌が!!」
「歌がどうしたのです」
「なんで私まで〜!?」
歌っているとそこに屋敷の人に加えて天晴さんまで集まってきていた。杏寿郎さんが連れてきたらしい。
「ふたつとやふたばのまつは」
トンチキな旋律でボソボソと歌いながら、毱で遊んでいる私を見て全員ポカンとしていた。
「…」
名前を呼ばれて振り向いた。名前を呼ばれたら反応をするように言われていた。私が手放した鞠はからん、と音を立てて地面に落ちた。
「杏寿郎…が教えたのではないな。その歌はどこで……」
「……」
記憶に残る、女の人。
私を捨てた、あの女。
「おかあさま」
「…!御母堂のことを覚えていたのか」
うん。でも、私を捨てた。
「つ、ぎは」
「…?」
「つぎは、あなたたちに、すてられるのか」
そう言うと、大人たちは言葉を失っていた。
私は特に何も考えずにぼんやりとそう口にしていた。