第43章 傷が消えるまでずっとー過去の記憶ー
「慎寿郎。任務、ご苦労だったね。」
「は」
彼は不思議な声音だった。そして、しかと私を見つめていた。
「下弦の鬼の討伐をお願いしたけれど…報告にあった通りでは、その子が関係しているようだね。」
そして、慎寿郎さんは私を抱きしめたまま話し始めた。
「下弦の壱を討ったのはこの子です。」
すると周りの人たちがざわつき始めた。
「私はただ現場に駆けつけたに過ぎません。この子は自らで鬼を討ち、更には鬼になりかけていた隊士を斬り、鬼になる前に救ったのです。
どうやら劣悪な環境で育ったらしく、鬼が逃げ込んだ屋敷で閉じ込められていたようなのです。声も出ないのか、話しません。自身に危害を加えるものには傷をつけ、不安定な子供です。」
……難しい言葉が多いけれど、何を言っているのかはなんとなくわかった。
「そうか。」
彼は頷いた。
「…そして…これはなんというか、私の憶測に過ぎませんが…」
「構わないよ」
「…この子が閉じ込められていた部屋には、血に汚れた新台がありました。その血は古いものでした。おそらく、血の広がりからして男のもの…あの部屋で誰か死んでいるものと……。」
慎寿郎さんは私を見下ろした。
「…その子が殺したと?」
「はい、ですがもうひとつ」
「何かな」
この時点で周囲のざわつきはよくないものへと変わっていた。明らかに空気は私への疑心で満ちていた。
「……腐った…赤ん坊のものと思われる骨が散らばっていました。全て回収できずにカケラほどですが。
…その骨をこの子は握りしめていました。弟か妹か、と思ったのですが…部屋の惨状を見て、この子の子供であると判断しました。」
お館様と呼ばれる人は顔色ひとつ変えずに話を聞いていた。
あの長髪の天晴さんは、『ヒイッ』と悲鳴をあげてみんなに睨まれていたけれど。