第43章 傷が消えるまでずっとー過去の記憶ー
「あんたがボロ布でおさえこんで箱詰めにしたからでしょ〜〜?」
長年部屋の中に閉じこもって同じ景色を見ていたせいか視界の焦点がいまいち合わないが、どうやらここには何人か人がいるらしい。気配でわかる。
低い声を無理に高くしたような、高飛車な声が聞こえた。長髪の女…ううん、男の人だ。
髪を指でくるくると巻きつけていじりながら興味なさげにその人の傷を見ていた。
「誰だって暴れるわよ。」
「で、ですが、鳴柱様…本当に危険なのです、抑えつけていなければ…!」
「慎寿郎が抑えつけてるじゃない。いいから下がりなさいよ。お館様がいらっしゃるわ。」
彼はふっ、と髪を払った。キラキラと艶めくその様子は……なんといえばいいのかよくわからなかったけど、つい見惚れてしまった。
私を箱詰めにした人は文句ひとつ言わずにさっさと去っていった。
…この人に怯えてるみたいだったけど。
「あんた、名前は」
そして彼はしゃがみ込んで私の顔を覗き込んできた。
「………」
「な、ま、え」
「………」
「天晴、おそらく…」
慎寿郎と呼ばれたほむら色の人は長髪の人を天晴と呼んだ。天晴と言う人は何も言ってこなかった。
「で、あんたはどうして黙って突っ立ってるのよ。」
まだ視界がぼんやりとしかせず、遠くにいる人のことは見えなかった。けれど、この気配は知っているような気がした。
「春風ってこういうことにはすごい怒りそうなのに。意外と冷静ね。」
「…そ、そうかい。」
…誰だっけ。名前も声を聞いたことがあるけれど。
ぼんやりと考えていると、またひとつ気配が増えた。するとその方向に向かってその場にいる全員の視線が集中した。
「お館様。本日も良きお日柄にて…」
私を抱き抱える人がまた話し始めた。他の人は皆地面に膝をついていた。
ようやくそちらに顔を向けると、そこには子供がいた。