第42章 身を尽くし
初めてこっちにきた時、アリスちゃんが声をかけてくれたことで今の場所で暮らすことになった。
何も疑っていなかった。
「童磨くんが言うみたいに、きっと私のせいなんだろうなって思い込んで…どこで間違ったんだろうってここ最近はずっと考えことをしていたの。そこで気づいたのよね。アリスちゃんがやたらと私をここに置きたがったことに。」
アリスちゃんはお店の人手が足りないからと住み込みで働かせてくれた。絵を描く場所も時間もくれた。
何も不自然なことはない。
初めの頃、アリスちゃんは過激なほどに実弥を追い返そうとしていた。何より童磨くんに私の居場所がバレていたこと。
このことは大きかった。なぜ、私があの時病院にいると彼はわかったのだろうか。そこで嫌な可能性に気づいた。
私があの場所にいることを知っている人は少ない。だって私は引っ越しをするとはいえど、住所までは教えていない。
ましてや彼と会った病院は、私だって初めて行った場所だ。いくらなんでもおかしすぎる。
しかも、優鈴が被害にあったところで丁度私に会いにきた。あの時、私に病院に行こうと誘ったのは…。
___アリスちゃんだ
答えはすぐに出た。認めたくなかったけれど、考えれば考えるほど否定できる材料が減っていった。
「偶然とは思えないことが起きて、今日それが確信に変わったの。」
「…ならば、彼女はもう童磨の手に落ちていると?」
その質問には頷くことができなかった。
「アリスちゃんは完全に童磨くんの味方ってわけではないと思うの。…だって、美術館のヒントをくれたのも彼女だし。」
「それさえも戦略だとすれば?」
「…それなら、私が気配で察知できるし……」
自分で言いながら最後は尻すぼみになった。当然、巌勝はそんな私を怪しんだ。
「…自信がないのか」
「わからないの」
「……」
「もう何もわからないの」
私はぎゅっと目を閉じて、膝の上で震える拳を握りしめた。
「こうしている間も何か起こっているのに、私は足踏みしてばかりで何もできないの。全部、全部信じられない。」
まとわりつく恐怖や不安を、初めて吐き出した。
私が折れたら終わりだと思っていたから。でも、申し訳ないが私だって人間だ。
もちろん、限界だってある。